事業売却とは?会社売却・株式譲渡との違いやメリットと注意点を徹底解説!

事業売却はM&A手法の一種で、企業ではなく事業や資産単位で売却するという特徴があります。その点で、事業売却は他のM&A手法とは大きく異なります。その分メリットもデメリットも大きいので、あらかじめ把握しておく必要があります。

目次

  1. 事業売却とは
  2. 事業売却の特徴
  3. 事業売却のメリット
  4. 事業売却のデメリット
  5. 事業売却の手続きフロー
  6. 事業価値の算定方法
  7. 事業売却での税金
  8. 事業売却での会計処理
  9. 事業売却を行う上での注意点
  10. 2023年の事業売却3事例
  11. 事業売却のまとめ

事業売却とは

事業売却とは、企業が所有する事業を別の企業や個人に売却することです。売却するのは事業なので、企業自体は存続するという特徴があります。

事業売却は事業譲渡という呼び方をする場合も多いです。事業売却には、後述する複数の特徴、注意点、手続きなどがあります。

事業売却と会社売却(株式譲渡)の違い

事業売却と並んで事例の多いM&A手続きとして会社売却(株式譲渡)があります。会社売却は事業売却とは異なり、会社そのものを売却します。つまり会社の所有者が元の経営者から買収した経営者に移るということです。

また会社を売却する場合、帳簿上は株式の売却になります。株式を売却して会社の所有権を移転させるので、事業売却とは複数の点で違いが出てきます。

具体的には、会社売却の対価の受領者は株主であること、会社売却は消費税の対象外であること、会社売却では従業員・資産・負債なども包括的に承継されること、などが大きな違いです。

事業売却の特徴

事業売却には以下のような特徴があります。

  • 個人事業主の事業承継
  • 事業の選択と集中
  • 事業再生
  • イグジット戦略

それぞれの特徴や注意点について解説していきます。

個人事業主の事業承継

個人事業主が所有しているのは事業のみで、会社は所有していません。そのため、個人事業主が事業を売却する際は事業売却という扱いになります。

M&Aの方法は複数ありますが、個人事業主の場合は基本的に事業売却・事業譲渡になるということです。法人の場合は株式譲渡や会社分割など複数の選択肢があります。

事業の選択と集中

企業に残った事業に集中するために事業売却を行うケースも多いです。企業が複数の事業を持っている場合、たとえば収益化できている事業と赤字の事業に分かれる可能性があります。こういった場合、赤字の事業を売却し、労力や資金を収益化できている事業に集中させるという選択が可能です。

自社で黒字化できない事業は他社にとっても不要と思われるかもしれませんが、他社のノウハウや事業と組み合わせることで相乗効果を発揮し、収益を伸ばせる可能性もあります。自社にとっては売却したい事業でも他社にとっては有益な場合があるので、事業売却が成立するということです。

事業再生

事業を存続させ、再生したい場合にも事業売却が行われることがあります。事業売却すると事業は当然自社からは離れるのですが、買収した企業が事業を継続させてくれます。事業が存続することで、顧客、取引先、従業員が守られます。

イグジット戦略

イグジット戦略とは、事業を売却することで事業に投資した資金以上の資金回収を目的とした戦略です。平たく言えば対価として支払われるお金を主な目的とした事業売却ということです。

イグジット戦略によって獲得した資金は、次の事業の立ち上げなどに使われるケースが多いでしょう。ただし新規事業を立ち上げないとイグジット戦略にならないというわけではなく、単に資金を獲得して終わりの場合もイグジット戦略に該当します。事業売却によって目的のお金を入手できればイグジット戦略は成功となります。

事業売却のメリット

売却側、買収側それぞれの事業売却のメリットをご紹介します。M&Aそのもののメリットもあれば、他のM&A手法と比較して事業売却のみに該当するメリットもあります。

売却側のメリット

まずは売却側のメリットです。売却側のメリットとして以下が挙げられます。

  • 対価の獲得
  • 売却事業を選別できる
  • 売却資産を選別できる
  • 移籍させる従業員を選別できる

それぞれのメリットについて解説していきます。

対価の獲得

事業売却に限らず、株式譲渡などM&A全般において売却側は対価を獲得できます。事業再生や取引先を守るといった目的もあるかもしれませんが、それでも経営者本人にとっては対価が得られないと事業売却の大きな動機にはならないでしょう。

売却事業を選別できる

売却事業を選別できることは、事業売却ならではのメリットです。他のM&A手法の場合は基本的に企業ごと売却するので、売却する事業と残す事業を選別できません。一部の事業を残して一部の事業を売却したい場合、事業売却という選択になります。

売却資産を選別できる

事業売却では、売却する事業だけでなく資産も選択できます。自社に残す資産と売却する資産を選別するので、売却側はあらかじめ決めておくのが一般的です。ただし買収側も希望を出してくるかもしれないので、最終的には売買企業間の交渉によって売却資産は決まります。

移籍させる従業員を選別できる

事業売却では売却する事業や資産だけでなく、付随する従業員もどちらの企業に在籍させるか決められます。最終的には従業員本人や買収側の企業と交渉する必要がありますが、売却企業の意向で交渉を進められます。他のM&A方法では従業員は買収側企業に移るので、事業売却ならではのメリットです。

買収側のメリット

事業売却の買収側のメリットとしては以下が挙げられます。

  • 買収事業を選別できる
  • 買収資産を選別できる
  • 簿外債務の引き継ぎリスクがない
  • のれん償却による節税効果

それぞれのメリットについて解説していきます。

買収事業を選別できる

事業売却では、買収側も買収する事業を選別できます。ただし当然売却側が先に売却希望の事業を提示しているので、たとえばメインの事業を買収するのは売却側の意向として困難なケースが多いでしょう。売却側の意向を汲んだうえで、交渉していくということです。

買収資産を選別できる

買収資産についても、買収側から希望を出して交渉することが可能です。事業に比べると交渉の余地は大きいでしょう。当初売却側が提示していなかった資産でも、交渉次第で買収できる可能性があります。

簿外債務の引き継ぎリスクがない

株式譲渡などのM&A手法では、企業の事業・資産・負債などを包括的に承継することになります。つまり、売却側企業に含まれている簿外債務を引き継いでしまうリスクがあるということです。簿外債務とは、帳簿上はわからない債務です。

売却側が意図的に簿外債務を隠している場合もあれば、売却側も把握していない簿外債務が潜んでいるケースもあります。事業売却では買収する対象を一つ一つ選別していくので、その売却側に簿外債務があってもそれを引き継いでしまうことはありません。

のれん償却による節税効果

事業売却を含むM&Aでは、売買費用にのれんを含めるのが一般的です。のれんとは、帳簿上の数字には表れないものの、客観的に企業の価値と言えるもののことです。たとえば取引先、技術、販路、組織体制など将来的な利益に貢献しそうなものが含まれます。

事業売却の売買費用にはこののれんの費用も上乗せされるのですが、のれんはのれん償却という形で損金扱いにできます。つまり売上から差し引くので節税につながるということです。事業売却によって取得したのれんは一定期間でのれん償却します。

のれんの償却期間は会計上は最大20年で効果が及んでいる期間に合わせて償却しますが、税務上は5年の定額償却です。

事業売却のデメリット

次に事業売却のデメリットです。売却側、買収側それぞれのデメリットを挙げていきます。事業売却ならではのデメリットもあれば、M&A全般に当てはまるデメリットもあります。これらのデメリットは注意点でもあります。

売却側のデメリット

まずは事業売却における売却側のデメリットです。売却側のデメリットとして以下が挙げられます。

  • 事業別財務諸表の作成
  • 株主総会の特別決議
  • 競業避止義務
  • 負債が残りやすい
  • 売却益への課税

それぞれのデメリット、注意点について解説していきます。

事業別財務諸表の作成

事業売却では売却する事業と自社に残す事業に分かれます。そのため、売却する事業は別で財務諸表を作成し、買収側企業に引き継ぐ必要があります。その結果、他のM&A方法よりも会計処理に手間がかかります。

株主総会の特別決議

事業売却では株主総会による特別決議が必要です。特別決議では基本的に株主の過半数が出席し、議決権の2/3以上が賛成する必要があります。株主への通知や交渉が必要になるため、労力がかかるという点でデメリットと言えるでしょう。賛同が得られない可能性もあるので、その点もデメリットになります。

競業避止義務

競業避止義務は、基本的に20年間同一市区町村や隣接する市区町村で売却事業と同一事業を行えないという取り決めです。基本的には20年間ですが、最長30年まで延長可能で、また逆に0年まで短くすることも可能です。

競業避止義務があると事業に制限が出てくるので、売却側にとってはデメリットと言えるでしょう。ただし最近は競業避止義務を数年間など短くしたり、そもそも競業避止義務を設けないケースも増えています。

売買企業間の交渉で自由に設定できるので、相場として競業避止義務がどんどんなくなっていけば、売却側にとってデメリットはなくなっていくということです。

負債が残りやすい

事業売却では売買企業が売却対象の希望を出せますが、負債の売却を希望するのは難しいです。買収側は当然負債の買収は希望していないので、負債を切り離して買収したいと考えるからです。

売却側は負債を含めることを条件に売却価格を下げる提案なども可能ですが、一般的には事業売却では負債が残りやすい傾向があります。買収側にとって価値のある事業や資産のみが事業売却の対象になるということです。

売却益への課税

事業売却を含むM&Aでは、売却益に対して税金がかかります。メインは法人税ですが、事業売却の場合は消費税もかかります。たとえば株式譲渡の場合消費税はかからないので、事業売却は売却益に対して税金額の合計が高くなる傾向があります。

消費税は税法上は買収側が納めることになっていますが、負担自体は売買企業どちらでも問題ありません。そのため、売却側が全部または一部を負担するケースも多いです。税金が高いのは事業売却のデメリットと言えるでしょう。

株式譲渡の場合は分離課税ですが、事業売却の場合は総合課税となる点には特に注意が必要です。

買収側のデメリット

次に買収側のデメリットを紹介します。買収側のデメリットとして以下が挙げられます。

  • 消費税の発生
  • 許認可の取得
  • 取引先・従業員との契約し直し
  • 資産・権利義務の移転手続き

買収側のデメリットをそれぞれ解説していきます。

消費税の発生

株式譲渡などは株式の取引が課税取引に該当しないので、消費税はかかりません。しかし事業譲渡では事業や資産を売買する取引なので、課税取引に該当します。つまり消費税が課税されるということです。

消費税は売買企業のどちらが負担しても問題ないので、売却価格に消費税を含んで計算する場合もあります。ただし仮に売却側が負担することになったとしても、消費税が考慮された価格設定にはなるでしょう。つまり結局のところ、買収側にはどんな形であっても消費税のデメリットは発生するということです。

許認可の取得

株式譲渡のように会社を丸ごと売買すれば、許認可も丸ごと引き継がれます。しかし事業売却の場合は個別に引き継ぐので、許認可は引き継げません。売買企業間で合意があっても外部機関には無関係なので、買収側が再度許認可を取得しなおさなければならないということになっています。

株式譲渡も経営の実態が変わるのは同じなので許認可の取得が不要なのは違和感があるかもしれませんが、法律上事業売却のみ許認可の再取得が必要ということになっています。

取引先・従業員との契約し直し

事業売却は取引先、従業員も引き継げないので再度契約が必要です。株式譲渡の場合は取引先や従業員もそのまま引き継がれるので、個別に説明は必要ですが法律上の手続きは不要です。

一方で、事業売却では買収側が再度取引先、従業員と契約を結びます。スムーズに進む場合もあれば、交渉が難航する場合もあります。買収側だけですべての交渉を進めるのは難しいので、売却側のサポートも必要です。

資産・権利義務の移転手続き

事業売却では資産や権利義務を個別に売買するので、個別に移転手続きが必要です。売買が成立すれば移転手続き自体は事務的に進められますが、手間がかかるという点ではデメリットになるでしょう。売却側がもともと登記などを怠っていたり把握していないと、確認などにも手間がかかります。

事業売却の手続きフロー

事業売却のフローは概ね株式譲渡など他のM&Aと同じです。しかし上でご説明した通り事業譲渡は他のM&A方法よりも手間がかかるという特徴があるので、フローも長くなります。具体的には以下のようなフローが一般的です。

  • M&Aアドバイザーとの契約
  • 交渉相手探し
  • 事業価値評価
  • 秘密保持契約・交渉開始
  • トップ面談
  • 基本合意書
  • デューデリジェンス
  • 取締役会決議
  • 事業譲渡契約書
  • 公正取引委員会への届出
  • 臨時報告書の提出
  • 株主への通知・公告
  • 株主総会特別決議
  • 事業の許認可取得
  • クロージング

すべての事業売却で上記すべてのフローが実施されているとは限らず、また順番が前後することもあります。

M&Aアドバイザーとの契約

事業売却の実施にあたって、まずはM&Aアドバイザーと契約を締結します。契約締結前には、M&Aアドバイザーへの無料相談などを行っている場合が多いです。事業売却の実施が決定したら、M&Aアドバイザーと契約を結ぶのがおすすめです。

交渉相手探し

M&Aアドバイザーとの契約締結後、経営者とM&Aアドバイザーの間で認識のすり合わせ等が行われます。内容としては、どのような形での売却を希望するか、売却価格はどのくらいを希望するか、といったものです。

経営者からの希望とM&Aアドバイザーが把握している相場をすり合わせ、条件をある程度固めていきます。条件がある程度固まったらM&Aアドバイザーが交渉相手を探し、経営者に紹介します。

事業売却は他のM&A方法に比べると選択肢が多いです。売却する事業や資産を個別に選択できるからです。そのため、交渉相手を探しつつ条件を変更していくようなケースも多々あります。

事業価値評価

事業価値評価は交渉相手を探す前に実施する場合も多いですが、交渉相手を探す前には基本的な評価のみ行い、実際に交渉相手を探しつつ詳細な企業価値評価を行う場合もあります。

企業価値評価はM&Aアドバイザーや彼らが用意した専門家が行うケースが多いでしょう。客観的な評価を行い、評価に基づいて売却側企業への提案等を行います。

秘密保持契約・交渉開始

交渉相手が決まったら、秘密保持契約を締結します。秘密保持契約を締結する理由は、売却側の情報を守るためです。交渉を進めるにあたって買収側は売却側の詳細情報を把握する必要がありますが、売却側は情報を流出させられると不利益を被ります。そのため、情報を守りつつ開示するために秘密保持契約を締結します。

秘密保持契約を締結したら、売買企業間での交渉を開始します。中小企業のM&Aにおいて、M&Aアドバイザーは基本的に売買企業のどちらかの側につくわけではなく、中立の立場で両者をサポートしていきます。

トップ面談

トップ面談は売買企業それぞれの経営者が面談を行うことです。トップ面談は、両者の顔合わせの意味を持ちます。会社経営やM&Aに対する考え方などを話すのが一般的で、お互いを知るために趣味などのプライベートな会話をする場合もあります。

トップ面談の場では事業売却に関する詳細までは話さないことが多いでしょう。ある程度の大枠は話す場合もありますが、具体的な金額や細かい条件を交渉するのはもっと後の工程です。

基本合意書

トップ面談で認識のズレや価値観が合わないといったことがなければ、基本合意書を締結します。基本合意書は事業売却に関する基本的な内容に両者が合意するための書類ですが、これによって事業譲渡が確定するわけではありません。あくまでも認識合わせのためのものです。

デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、買収側が売却側の事業等を調査することです。デューデリジェンスの切り口は複数あり、各専門分野から調査を行います。具体的には、法務、税務、ビジネス、ITなどの分野が挙げられます。

これらの分野の各専門家がデューデリジェンスを担当するのが一般的です。M&Aアドバイザーが仲介している場合、M&Aアドバイザーが各専門家に依頼します。買収側はデューデリジェンスの費用がかかるため、調査項目は特に気になる分野に絞るケースが多いでしょう。

売却側はデューデリジェンスに協力を求められ、たとえば資料の提示を求められたら対応するといったことが挙げられます。

取締役会決議

取締役会で事業売却の決定を行います。一般的にはすでに取締役内で事業売却の話は固まっているので、決議の段階で意見が割れることは少ないでしょう。

事業譲渡契約書

取締役会決議の後、事業譲渡契約書を締結します。基本合意書とは異なり、事業譲渡契約書を締結すると事業譲渡を行うことが決定します。

公正取引委員会への届出

事業売却による売上高が規定の金額を上回っている場合、独占禁止法の観点から公正取引委員会に届け出が必要です。株式譲渡など他のM&A方法でも同じです。

臨時報告書の提出

事業譲渡契約書の締結後には、金融商品取引法の規定により臨時報告書の提出が必要です。臨時報告書は株主が適切な投資判断ができるように提出します。また社内で情報を保管するという目的もあります。

株主への通知・公告

株主への通知・公告を行い、その後に株主総会を開きます。株主への通知・公告では、事業売却を実施する旨、株主総会を行う旨、事業売却に反対の場合は株式買取請求権を行使できる旨などを伝えます。

株主総会特別決議

株主総会特別決議では、議決権の過半数の株主が出席し、なおかつ出席者の2/3以上の賛成が必要です。反対株主に対しては買取請求権があるので、株式を買い取ることになります。手間のかかる手続きです。

事業の許認可取得

事業売却では許認可は買収企業に引き継がれないため、買収企業は再度許認可を取得する必要があります。

許認可を取得するタイミングに決まりはありませんが、事業を開始する前に取得しないと事業を始められないか、許可なしに開始することになってしまいます。許認可以外にも、必要な手続きがあれば早めに進めておく必要があるでしょう。こちらも手間や労力がかかる手続きです。

クロージング

事業売却でのクロージングとは、事業売却の取引を実行することであり、クロージングを行うことで事業譲渡が完了します。売却側は事業を引き渡し、売却側は代金を支払います。クロージングには複数の手続きがあるので、期間を要する点が注意点です。

事業価値の算定方法

事業売却において、事業価値の算定は重要な工程です。事業価値によって売買金額や交渉の内容が変わってくるからです。早めに事業価値が分かれば事業売却の戦略にも反映されます。

そのため事業価値の算定は事業売却において必須なのですが、算定方法は複数あります。代表的なものは以下です。

  • 時価純資産法
  • 類似会社比較法
  • DCF法
  • 年買法

それぞれの算定方法について解説していきます。

時価純資産法

時価純資産法は、評価時点の資産の時価合計額から負債総額を控除した額を企業価値として算定する方法です。時価で評価するので客観的でわかりやすいですが、時価に反映されない部分の価値を評価しにくいというデメリットもあります。

そのため、時価に反映されない要素が少ない企業の評価に使用される場合が多いです。具体的には、事業が停滞している場合や衰退している場合が該当します。

類似会社比較法

類似会社比較法は、売却事業と類似する企業の株価によって事業価値を算定する方法です。類似する会社・事業があれば、市場の相場と照らし合わせて事業価値を評価できるので数字が客観的かつ現実的なものになります。

しかし、類似する会社・事業と言っても細部まで見ると違いが多く、またそもそも類似する会社や事業が存在しない場合もあります。そのため、類似会社比較法が使えるかどうかは企業や事業によって異なるでしょう。

DCF法

DCF法はディスカウントキャッシュフロー法の略です。DCF法では、企業のキャッシュフローを基準に企業価値・事業価値を算出します。DCF法は現在の企業価値だけでなく、事業が今後生み出す利益にも着目して企業価値を算定するため、特に伸びる可能性の高い事業を評価する際には適正な評価方法と言えるでしょう。

ただし、将来的な利益を正確に予測することは誰にもできません。言い換えれば、評価する人の主観が入り込みやすい算定方法ということです。

年買法

年買法は、企業の時価純資産額に一定期間の営業利益を上乗せして企業価値を算定する方法です。時価純資産法からプラスアルファで金額を上乗せされるということです。営業利益の期間は、1~5年程度が一般的です。

時価純資産法だと事業の将来性が加味されていないため、年買法は時価純資産法の弱点を補う算定方法と言えるでしょう。ただし、事業の営業利益が今後どれだけ出るか正確な数字は誰にもわかりません。そのため、年買法は主観が入りやすく、実態と乖離してしまう可能性もあります。

事業売却での税金

事業売却も他のM&A手法同様に税金がかかります。また事業売却は他のM&A手法よりも税金は多くなる傾向があります。具体的にどのような種類の税金がかかるのか、売却側、買収側それぞれ解説します。

売却側の税金

事業売却の売却側にかかる税金として以下が挙げられます。

  • 法人税(所得税)
  • 消費税

それぞれの税金について解説していきます。

法人税(所得税)

事業売却で得た売却益に対して法人税が課税されます。事業売却を行ったのが個人事業主の場合は、所得税が課税されます。法人税と所得税の考え方は、事業売却や他のM&A手法に限らず、一般的な事業利益と同じです。売却益の計算方法は、シンプルに売却額から譲渡資産の簿価を差し引いたものです。

消費税

一般的な売買行為同様、事業売却においても消費税を納税するのは売却側です。売却側が買収側から徴収し、預かって税務署に納税するという構造になっています。そして消費税をどちらが負担するかについては、法的な決まりはありません。

慣習上は買収側が負担するケースが多いですが、売却側が負担したり、折半しても問題ないです。たとえば消費税を売却側が負担する代わりに売却価格を高めに設定する、といった方法もあります。

ちなみに、株式譲渡の場合は株式は課税資産ではないので消費税はかかりません。株式譲渡と比較すると、消費税がかかる点は事業売却のデメリットと言えるでしょう。

買収側の税金

次に買収側にかかる税金です。買収側にかかる税金としては以下が挙げられます。

  • 消費税
  • 不動産取得税
  • 登録免許税

それぞれの税金について解説していきます。

消費税

事業売却でも消費税は買収側が負担するのが一般的です。納税は売却側が行います。そのため、事業売却の買収側は消費税の負担が生じる可能性が高いということです。ただし、消費税は買収側が負担しなければならないという法律はありません。

あくまでも、慣習上買収側が負担するのが一般的になっているだけです。交渉次第で売却側が消費税を負担したり、折半することも可能です。また消費税は売買した資産に対してかかるので、売却益ではなく支払った金額に直接課税されます。

不動産取得税

事業売却の対象に不動産が含まれている場合、不動産取得税がかかります。不動産取得税は原則資産税評価額の4%です。同じM&A方法の一つである会社分割で不動産の所有権を移転させた場合は、不動産取得税はかかりません。

登録免許税

不動産を売買した場合、不動産取得税と同様に登録免許税もかかります。登録免許税は固定資産税評価額の2%です。

事業売却での会計処理

次に事業売却での会計処理について解説します。売却側、買収側それぞれの会計処理は以下です。

売却側の会計処理

売却側の会計処理は以下のようになります。

譲渡負債

譲渡資産

付随費用

現預金

現預金

移転損益

売却側は負債や資産がなくなるので、借方に負債が入り、貸方に資産が入ります。移転損益は借方、貸方いずれか少ない方に入ります。上記の場合は現預金が貸方に入っているので、売却によって譲渡した資産や現預金よりも、なくなった負債や獲得した現預金の方が多い、つまり事業売却によって利益が出たということです。

買収側の会計処理

次に売却側の会計処理は以下のようになります。

譲受資産

譲受負債

のれん

現預金

売却側は譲り受けた資産とのれんの合計金額や譲り受けた負債と支払った現預金の合計額と一致します。のれんは資産として目には見えないものの、事業に存在するブランド力、ノウハウ、特許などの価値のことです。負債は負の資産とも言えるものなので、負債を引き継いだ分は現預金から相殺されるイメージになります。

事業売却を行う上での注意点

次に事業売却を行う上での注意点です。事業売却の際の注意点は多数ありますが、代表的かつざっくりしたものとして以下が挙げられます。当たり前と思われるものも含まれているかもしれませんが、基本として解説します。

冷静に判断する

冷静というと抽象的ですが、感情的にならないことはもちろん、客観的に考えることが重要です。事業売却を含むM&Aでは売買企業双方が希望条件や希望金額を提示します。売却側は特に事業に思い入れがある分事業価値を高く考えてしまうことがありますが、主観が入り込みすぎて客観的な数字と大幅にズレてしまうことがあるでしょう。

M&Aアドバイザーと認識を合わせ、相場を把握した上で交渉を進めることが重要です。また相手側が相場を把握していなかったり主観的な主張をしてくる場合も、同じように主観的に主張しても折り合いがつかないでしょう。

資料などを提示し、交渉相手にも冷静に判断してもらうよう促して後日再交渉した方がスムーズに進む場合があります。

条件にプライオリティをつける

事業譲渡では売買企業それぞれに条件面での希望が存在します。そして、この条件をすり合わせて妥協点を見つけることが事業譲渡の交渉です。言い換えれば、すべてが希望通りに進む可能性は低いということです。

交渉においては、どこかを妥協する代わりにどこかは希望を通してもらう、といったことが重要になります。どこを妥協してどこの希望を通すかを適切に判断するためには、あらかじめ条件にプライオリティをつけておく必要があるでしょう。

事業売却後の資金計画上の注意

事業売却の注意点として、事業売却後のことも視野に入れておく必要があります。特に資金計画は大きな注意点になります。事業売却は事業を取捨選択できるので他のM&A手法に比べるとトータル金額は低く抑えられる傾向があります。

しかし、事業売却は売却にかかる費用のわりには税金が高くなるケースが多いです。つまり税金をあらかじめ把握しておかないと、事業売却後の資金計画に支障が出てくる可能性があります。事業売却は税金が高いという特徴があるので、資金に余力がないと買収した事業を軌道に乗せる前に右肩下がりになるケースがあります。

2023年の事業売却3事例

次に2023年に実施された事業売却の事例を3つご紹介します。事例を把握しておくことで、事業売却の特徴や注意点の把握に役立ちます。

串カツ田中ホールディングスによるイートスタイルへの事業売却

2023年6月15日に、株式会社串カツ田中ホールディングスは株式会社イートスタイルに事業売却する旨の基本合意書を締結します。本事業売却の特徴は、直営店11店舗のみをフランチャイズ方式で譲渡したことです。

もともと串カツ田中ホールディングスは全国に1,000店舗程度の店がありますが、直営店とフランチャイズで多店舗展開を行っているという特徴があります。本事業売却では、直営店11店舗をイートスタイルに事業売却することでフランチャイズ化したということです。

イワイホーム、小岩井ドリームによる大英産業への事業売却

株式会社イワイホームと有限会社小岩井ドリームは、2023年7月25日に、大英産業株式会社に対して事業売却を行いました。大英産業は九州と山口県で分譲マンションや分譲住宅の販売を行っている企業です。

イワイホームは熊本県を中心に総合建設業を営む企業、小岩井ドリームは熊本県を中心にアフターメンテナンスやリフォームを行う企業です。大英産業は同業者の事業を買収することにより、販路拡大や人材や資源の獲得を狙いました。

本事業売却は同業者間で行われたという特徴がありますが、同業者間で行われたという特徴を持つ事業売却事例は数多いです。同業者間での事業売却は、シナジー効果等を発揮しやすいという特徴があります。

許認可取得などの手続きもスムーズなので、手続き全般が効率的という特徴もあります。

wevnalによるホットリンクへの事業売却

2023年1月27日、株式会社wevnalは株式会社ホットリンクに対してSNS広告事業全部とメディア事業の一部を事業売却しました。ホットリンクはネット広告の運用ノウハウやデータ解析に強みを持つ企業です。そのためwevnalの事業を買収することで、シナジー効果を発揮できます。

wevnalとホットリンクの事業内容は完全に同業ではないものの、類似しています。類似する事業を買収して横展開している点が本事業売却の大きな特徴です。類似する事業売却は手続きも比較的スムーズという特徴があり、数ある事業売却事例の中でも参考になるでしょう。

事業売却のまとめ

事業売却はM&A手法の一種で、企業そのものではなく事業単位で売買するという特徴があります。そのため事業単位で個別に選択できる点や、資産や負債も取捨選択できる点も特徴です。ただし事業や資産を個別に選別するので手続きに手間がかかるという特徴もあり、売買金額に対して税金が多くかかる点も大きな特徴でしょう。

このように事業売却は他のM&A手法に比べて良くも悪くも特徴的です。これらの特徴は同時に注意点とも言えます。手続き面や税金面はあらかじめ把握しておくべき注意点でしょう。株式譲渡などの他のM&Aと比較した際の特徴、注意点、手続きなどをあらかじめ把握し、早めに手続きを進めていくことが重要です。

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M&Aや事業承継を行う場合、自社の株式価値を算出するために株価算定を行います。そのような株価算定には、どのような方法で行われるのか気になる方も少なくありません。そこで今回は、株価算定方法・目的から手順・かかる費用・メリット・注意点まで解説します。

会社分割においての債権者保護手続きを徹底解説!対象者・目的・流れは?

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会社分割においての債権者保護手続きを徹底解説!対象者・目的・流れは?

組織再編行為に該当する会社分割では、原則、債権者保護手続きを行わなければなりません。本記事では、目的やメリット、手続きの流れや注意点に触れながら、会社分割における債権者保護手続きを詳しく解説します。手続きの相談ができる専門機関も併せて紹介します。

事業承継のポイントを徹底リサーチ!準備すべきことや成功するには?

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事業承継のポイントを徹底リサーチ!準備すべきことや成功するには?

事業承継を成功させるためには、いくつかのポイントを意識しておく必要があります。特に事業承継が行えないと廃業してしまうリスクもあるため、しっかりと準備しておくことが大切です。そこで今回は、事業承継のポイントや準備すべき事柄、成功するための方法を解説します。

事業承継で負債がある際のポイントを解説!メリットや手続きの流れは?

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事業承継で負債がある際のポイントを解説!メリットや手続きの流れは?

事業承継を行う企業の中には、負債がある状態で進める事例も少なくありません。負債がある事業承継を行う場合には、どのようなことに注意して進めていくべきか気になる方も多くいます。今回は、事業承継で負債がある際のポイントやメリット、手続きの流れを解説します。

M&Aの手順とは?買収・売却側の視点から進め方を徹底解説!

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M&Aの手順とは?買収・売却側の視点から進め方を徹底解説!

M&Aを検討・実施するにあたって、手順の把握は有意義なことといえます。ただし、買収側と売却側では立場が異なるため、進め方の違う部分を知っておくことも重要です。本コラムでは、M&Aの手順を買収側・売却側双方の観点を交え、一連の進め方を解説します。

事業譲渡のスケジュールは何ヶ月かかる?期間と手続きの流れや注意点を解説!

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事業譲渡のスケジュールは何ヶ月かかる?期間と手続きの流れや注意点を解説!

本コラムでは、事業譲渡のスケジュールにスポットを当て解説します。主な内容は事業譲渡の概要、スケジュールの期間、手続きの流れ、メリット・デメリットと注意点、発生する税金、個人事業主における事業譲渡の手続き内容、具体事例の紹介などです。

株式譲渡とは?メリットや手続きの流れと事業譲渡との違いなど徹底解説!

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株式譲渡とは?メリットや手続きの流れと事業譲渡との違いなど徹底解説!

株式譲渡は、企業規模や業種を問わず幅広く採用されているM&Aスキーム(手法)です。本コラムでは株式譲渡を徹底解説します。主な内容は、事業譲渡との違い、手続きの流れ、メリットや注意点、発生する税金や節税方法、具体事例の紹介などです。

買収とは?合併との違いや手法ごとのメリットと買収の流れを解説!

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買収とは?合併との違いや手法ごとのメリットと買収の流れを解説!

M&Aを直訳すると「合併と買収」です。本コラムでは、そのうちの買収について多面的に掘り下げて解説します。具体的には、合併との違い、買収が行われる際の流れ、買収の各手法の違い、買収のメリット・デメリットなどをまとめました。また、各買収手法の事例も紹介しています。

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