事業承継の手続き方法とは?必要書類や流れと税金についても解説!
事業承継は、後継者の立場の違いで手続き方法が異なります。本コラムでは、3種類の事業承継の違い、それぞれの事業承継手続きの方法や流れ、必要書類や課せられる税金などをまとめました。また、法人と個人事業主の事業承継手続きの違いも解説しています。
目次
事業承継とは
事業承継とは、中小企業経営者または個人事業主が、後継者に法人または個人事業の経営権を引渡すことです。ここでは、事業承継の概念をより理解するため、以下の項目に沿って解説します。
- 事業承継で後継者に引渡す要素
- 事業承継対策
- 法人と個人事業主との事業承継方法の違い
事業承継を概念として確認しましょう。
事業承継で後継者に引渡す要素
事業承継で後継者に引継がれる法人または個人事業の経営権の内容・要素は、以下の3点です。
- 自社株式または事業用資産
- 無形資産
- 経営理念
法的に事業承継が成立するためには、法人であれば自社株式、個人事業であれば事業用資産の承継手続きが欠かせません。
また、事業を実際に行うには、無形資産の承継も必要です。無形資産とは、知的財産権、組織、人材、ブランド力、営業ネットワーク、取引先・顧客リスト、許認可などが該当します。
そして、現経営者の経営理念・経営ビジョンなど経営に対する取り組み方・姿勢といったものも、後継者は引継がなければならない要素です。
事業承継対策
事業承継の細かな手続き方法と流れは後述しますが、事業承継対策として欠かせない手続き項目は以下の3点です。
- 自社または個人事業の分析
- 経営改善
- 事業承継計画書の作成
自社または個人事業の分析とは、経営状態の分析・把握と、事業承継手続きを行うために必要になることの分析・把握を2面的に行います。
経営改善は、経営状態の分析で把握した強みの向上、弱みの克服などを目指す、会社または事業の磨き上げのことです。
そして、事業承継手続きを行うために必要になることの分析に基づいて事業承継計画書を作成することは、事業承継を円滑に進めるために欠かせません。
法人と個人事業主との事業承継方法の違い
法人格を持つ法人の経営権は、株主総会での議決権、つまり、自社株式を3分の2以上保有することで得られます。過半数ではなく3分の2以上の株式が必要なのは、株主総会の特別決議で必要な議決権数だからです。
一方、法人格を持たない個人事業は、事業に必要な資産を個人事業主1人が所有しています。つまり、個人事業において、法人でいうところの経営権と同等の意味を有するのは、事業に必要な資産の所有権です。
また、法人の場合、3分の2以上の自社株式の所有者が代わることで経営権は後継者に移行します。株式の譲渡手続き以外に特別な手続きは必要ありません。
しかし、個人事業では、事業用資産を後継者に引渡す手続きをした後、現経営者は廃業手続きを行い、後継者は新たに個人事業の開業手続きを行う必要があります。
事業承継の3つの方法
事業承継は、後継者の立場の違いにより、以下の3種類の方法に分かれます。
- 親族内事業承継
- 社内事業承継
- M&Aによる事業承継
それぞれの事業承継方法の概要・違いを説明します。
親族内事業承継
後継者が現経営者の親族の場合、親族内事業承継といいます。親族とは経営者の配偶者、子ども、子どもの配偶者、兄弟姉妹、甥姪などですが、親族内事業承継における代表的な後継者は、経営者の子どもです。日本の中小企業、個人事業では、広く親族内事業承継が行われてきました。
しかし現在は、少子化と各人の価値観多様化という2つの側面から、親の後を継がない子どもが増え、減少傾向にあります。親族内事業承継手続きは、相続または贈与で成立するものです。その際、後継者には税金が課されます。この税金の負担も、後継者が減っている1つの原因です。
社内事業承継
後継者が会社の役員や社員の場合、社内事業承継といいます。以前から親族内事業承継が実施できない場合の次善の策として行われてきましたが、近年は親族内事業承継が減少傾向のため、社内事業承継が増えてきている状況です。
親族ではない社員が後継者となるためには、自社株式または事業用資産を現経営者から買取らなくてはなりません。相応の金額が必要となるため、それが用意できない場合、後継者を辞退する社員もいます。したがって、この資金対策が社内事業承継の課題です。
M&Aによる事業承継
親族や社内に後継者候補がいない場合、廃業を避ける手段として、自社または個人事業をM&Aで売却します。これがM&Aによる事業承継です。M&Aの買い手側が後継者となります。中小企業や個人事業といえども、廃業となれば少なからず地域経済にダメージをもたらすでしょう。
しかし、M&Aで会社・事業が存続することによって、従業員の雇用、取引先の仕事、顧客のサービス利用・商品購入といったものが守られます。また、経営者は売却対価を得ることが可能です。国による啓蒙活動も手伝って、現在、M&Aによる事業承継も増えています。
以下の動画では、3種類の事業承継の解説をしています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、親族内事業承継とM&Aによる事業承継の比較解説をしています。ご参考までご覧ください。
親族内事業承継と社内事業承継の手続き方法と流れ
親族内事業承継と社内事業承継は、自社株式または事業用資産の引き渡し方法を除いて、ほぼ同じ手続き方法・流れです。親族内事業承継と社内事業承継の手続きは、以下のような流れで進めます。
- 状況確認
- 後継者候補の決定
- 後継者候補の意思確認
- 関係者への周知
- 事業承継計画書の作成
- 経営改善(磨き上げ)
- 後継者教育
- 自社株式・事業用資産の受け渡し
- 経営者保証の処理
- 税金納付
各手続き方法の内容を説明します。
状況確認
親族内事業承継と社内事業承継の手続きを進める流れは、会社・個人事業の状況確認から始めます。この場合の状況とは、経営の状況および事業承継に向けた状況の2つの面です。
経営状況の確認では、現在の事業の状況、今後の見通し、会社の強みと弱みの分析を行います。事業承継に向けた状況の確認では、後継者候補の有無、自身の引退時期=事業承継実現時期の想定、事業承継に向けて準備する内容などを検討するのが主なテーマです。
後継者候補の決定
状況確認後の手続きの流れは、候補者候補の決定です。複数の候補者がいるのであれば、最も経営者としての適性が高いと思われる人物を後継者候補に選びましょう。
また、残念ながら後継者候補が親族にも社内にもいない場合は、M&Aによる事業承継に切り換えます。M&Aによる事業承継手続き方法の流れは後述いたしますので、そちらをご覧ください。
後継者候補の意思確認
後継者候補決定後の手続きの流れは、後継者候補の意思確認です。本人に後継者となる意思がなければ、事業承継はできません。
もし、後継者候補が後継者となることを固辞した場合、他に候補者がいるのであれば、あらためて選定し意思確認を行います。他に候補者がいない場合は、M&Aによる事業承継に切り換えるしかありません。
関係者への周知
後継者候補の意思が確認できたら、関係者への周知手続きに移行する流れです。関係者とは、親族、従業員、取引先などが該当します。周知の方法、タイミングなどはよく検討して行うことが必要です。関係者にショックを与えず、後継者を受け入れられやすくするよう工夫します。
また、後継者が親族だと、現時点では外部の企業で働いているケースもあるでしょう。その場合は、周知と同時に入社させ、早く業務に慣れさせる必要があります。
事業承継計画書の作成
関係者への後継者の周知がすんだら、次の手続きの流れは事業承継計画書の作成です。これからの事業承継を実施するまでの手続きの流れを、計画書に落とし込みます。
事業承継計画書の作成に困る場合は2つの対応方法があり、その1つは公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターに相談することです。事業承継・引継ぎ支援センターの詳細は後述しますが、事業承継計画書の作成を無償でサポートしてくれます。
もう1つの方法は、中小企業庁が公表している事業承継マニュアルです。事業承継マニュアル内には、事業承継計画書の作成方法が記されています。事業承継計画書の様式も掲載されているほか、事業承継自己診断チェックシートも付録としてあるので、一度、閲覧してみるとよいでしょう。
経営改善(磨き上げ)
事業承継に向けた具体的な手続きの流れとして、経営改善(磨き上げ)があります。初期の手続きである状況確認での会社・事業の分析に基づき、弱みの克服、強みの伸長、財務状況の健全化などを行って、できるだけ良い状態で後継者に事業承継することが狙いです。
単に利益を伸ばすことだけにとどまらず、できるだけ債務を解消する、新たな債務は作らないなどを実践しましょう。
後継者教育
事業承継に至るまでの手続きの流れの中で、最重要ともいえるのが後継者教育です。後継者教育には数年間かかるとされています。長ければ10年を要したという例もあり、経営者も後継者も腰を据えて行うことが必要です。
後継者教育方法としては、経営者が経営理念や経営者としての心構えを伝えていくことも重要ですが、昨今ではさまざまな機関において事業後継者向けの長期セミナーが開催されています。後継者の人脈を広げる機会にもなるため、活用するのも得策です。
自社株式・事業用資産の受け渡し
後継者教育も完了し、いよいよ事業承継するタイミングとなった際の手続きの流れは、現経営者から後継者への自社株式または事業用資産の受け渡しです。親族内事業承継であれば、現経営者からの生前贈与または死亡時の相続手続きにより、後継者に引継がれます。
社内事業承継であれば、現経営者から後継者への売却が手続き方法です。社内事業承継で後継者の資金が不足している場合、現経営者が分割支払いに応じたり、事業承継専用の融資を受けたりなどの対策が必要になります。
なお、事業用資産引き渡し後の個人事業主の手続き詳細は後述いたしますので、そちらをご覧ください。
経営者保証の処理
これまで中小企業では、経営者が会社の借入金の連帯保証人になっていることがほとんどです。これを経営者保証といいます。事業承継が実現し、経営者が代替わりした場合、この経営者保証をどうするかが焦点です。
先代経営者がそのまま経営者保証を負うのもおかしいですし、後継者が新たに経営者保証を負うのも嫌がるでしょう。現在、国としては、事業承継を契機に先代経営者の経営者保証を解除し、後継者には新たに経営者保証を負わせない状況となるように、ガイドラインを発表しています。
しかし、いずれにしても金融機関と直談判するしかありません。事業承継・引継ぎ支援センターや商工団体などにも相談しながら、金融機関と交渉しましょう
税金納付
親族内事業承継、社内事業承継手続きの流れの最後は、税金の納付です。この場合、親族内事業承継と社内事業承継では内容が異なります。親族内事業承継では、後継者が相続税、または贈与税の課税対象者です。
一方、社内事業承継では、先代経営者が株式譲渡益または事業譲渡益(資産譲渡益)に対して税金が課されます。それぞれの税金の詳細は後述いたしますので、そちらをご覧ください。
M&Aによる事業承継の手続き方法と流れ
M&Aによる事業承継の手続き方法は、以下のような流れで進めます。
- M&Aアドバイザーと業務委託契約
- 買い手探し
- 秘密保持契約・交渉開始
- トップ面談
- 基本合意書
- デューデリジェンス
- 最終交渉・最終契約
- クロージング
各手続き方法の内容を説明します。
M&Aアドバイザーと業務委託契約
M&Aによる事業承継手続き方法を進めるには、専門的な知識・経験が欠かせません。また、肝心要の事業承継相手=M&Aの買い手探しは専門家の手を借りる必要があります。
したがって、M&Aによる事業承継手続きの流れの第一歩は、M&Aアドバイザーとの業務委託契約の締結です。現在、以下の会社・機関がM&Aアドバイザー業を行っています。
- M&A仲介会社
- 金融機関
- 士業事務所
- 経営コンサルタント
- FA(フィナンシャルアドバイザー)
ほとんどのM&Aアドバイザーは、事前相談を無料で受け付けています。この無料相談を活用し、自社に適するM&Aアドバイザーを決めましょう。
以下の動画では、良いM&Aアドバイザーの見極め方を解説しています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、M&Aアドバイザーとの契約における注意点を解説しています。ご参考までご覧ください。
買い手探し
M&Aの買い手探しは、M&Aアドバイザーが行います。大まかな条件に合致する買い手候補が多数、リストアップされるでしょう。個人事業や小規模企業が売り手の場合、買い手候補が個人の場合もあります。
M&Aの買い手探しでは、リストアップされた多数の候補から絞り込みを行うのが次の流れです。数社まで候補を絞り込んだら、それらに優先順位をつけます。その優先順位に沿ってM&Aアドバイザーが交渉の打診をするので、相手の反応を待ちましょう。
秘密保持契約・交渉開始
M&A交渉の打診に応じる相手が現れたら、秘密保持契約を締結し交渉を開始する流れです。交渉の開始に先立って、こちらの経営に関する情報を開示します。その情報が外部に漏れるのを防ぐため、そして、M&A交渉を行っていることも秘密にするため、秘密保持契約締結は必須です。
なお、M&Aアドバイザーと契約している場合、交渉はM&Aアドバイザーが仲介または代行します。したがって、当事者間の直接交渉の必要はありません。
以下の動画では、秘密保持契約の解説をしています。ご参考までご覧ください。
トップ面談
トップ面談とは、M&Aの売り手と買い手の経営トップが直接会い、お互いの経営ビジョン、自社の特徴、M&Aの実施理由、M&A後の経営方針などを話し合うことです。また、お互いの人物像を見定める狙いもあるでしょう。
先述したとおり、M&A交渉はM&Aアドバイザーが仲介または代行するため、トップ面談で条件交渉は行われません。
以下の動画では、トップ面談の注意点を解説しています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、トップ面談とその後のM&Aの流れについて解説しています。ご参考までご覧ください。
基本合意書
M&A交渉で条件が大筋で合意に至れば、手続きとして基本合意書を取り交わす流れとなります。基本合意書は、合意内容を確認するための書面です。M&A実施に対する法的拘束力はありません。
ただし例外として、買い手側の独占交渉権、売り手側のデューデリジェンス(売り手の経営状態の調査、詳細は後述)への協力義務、秘密保持の3つの条項には法的拘束力を持たせます。
デューデリジェンス
デューデリジェンスは、M&Aの買い手が主導して実施する、売り手の経営状態に対する精微な調査のことです。M&A手続きでは、基本合意書の取り交わし後、必ず実施される流れとなります。
デューデリジェンスでは、開示されている情報が正しいか、開示されていない情報はないかなどが調査目的です。特に簿外債務があると買い手が後日、経営上のダメージを負うため、慎重に調べます。いずれにしても売り手としては、デューデリジェンスへ率先して協力しなければなりません。
以下の動画では、デューデリジェンスの解説をしています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、デューデリジェンスの種類を解説しています。ご参考までご覧ください。
最終交渉・最終契約
デューデリジェンス後、買い手側では最終的な企業価値評価(バリュエーション)が行われます。その結果を基にして、最終交渉で提示される条件が決まる流れです。デューデリジェンスで悪い情報が露見していなければ、基本合意書の内容に沿った提示条件になるでしょう。
最終交渉で無事に合意できれば、最終契約書の締結です。なお、最終契約書とは暫定の呼称であり、実際には株式譲渡契約書、事業譲渡契約書といったM&Aスキーム(手法)名を冠したタイトルになります。
以下の動画では、M&A契約締結当日の流れを解説しています。ご参考までご覧ください。
クロージング
M&Aは、最終契約書の締結で手続きが完了するわけではありません。クロージングを行うことによって、M&Aの効力が発生します。クロージングとは、最終契約書に記載された内容をM&Aの売り手・買い手それぞれが履行することです。
売り手側としては、自社株式や事業用資産の引渡し、株主名簿の書換えなどが該当します。買い手側としては、対価の支払い、資産の名義書換えなどです。
以下の動画では、M&A全体の流れについて解説しています。ご参考までご覧ください。
個人事業の事業承継
ここでは、個人事業の事業承継について確認します。個人事業の事業承継で承継される内容は以下の3項目です。
- 事業運営権の承継
- 従業員・取引先の承継
- 資産の承継
各承継内容について説明します。
事業運営権の承継
個人事業主が事業の運営権を後継者に承継するためには、現個人事業主が廃業手続きを行い、後継者が開業手続きを行わなければなりません。廃業手続き、開業手続きともに、税務署に対する手続きです。また、事業の状況により、その他の公的機関への手続きが必要な場合もあります。
ここでは、現個人事業主が行う手続きと後継者が行う手続きを分けて、確認しましょう。
現個人事業主の手続きと方法
個人事業主が税務署に対して行う廃業手続きは以下のとおりです。
- 廃業届け
- 事業廃止届け(消費税課税事業者)
- 青色申告取り止め届け
- 給与支払事務所の廃止届け(従業員がいる場合)
- 所得税・復興特別所得税の予定納税額減額申請(予定納税者)
従業員を雇用していた場合は、ハローワーク、年金事務所、労働基準監督署で社会保険に関する手続きが必要です。
後継者の手続きと方法
事業を承継する後継者側が税務署に対して行う開業手続きは以下のとおりです。
- 開業届け
- 事業開始届け(消費税課税事業者)
- 減価償却方法・棚卸資産の評価方法の選択届け
- 青色事業専従者給与に関する届け(従業員に青色専従者がいる場合)
- 青色申告承認申請(自由意思)
従業員を雇用する場合は、ハローワーク、年金事務所、労働基準監督署で社会保険に関する手続きが必要です。許認可が必要な事業を行う場合には、所管の官公庁で申請手続きを行い許認可を取得しなければ事業を開始できません。
屋号を新たに登記、あるいは先代個人事業主が使用していた屋号を引継ぐ場合は、所轄の法務局での手続きが必要です。
従業員・取引先の承継
先代個人事業主が雇用していた従業員を、後継者も継続して雇用する場合は、各従業員との間で新たに雇用契約を結ばなくてはなりません。先述したように、従業員の社会保険に関する手続きも必要です。
取引先の承継については、先代個人事業主と後継者がそろって挨拶に出向くのがベストでしょう。そのうえで、後継者と取引先との間で新たな取引契約を結んでもらうことで承継が成立します。
資産の承継
個人事業の事業承継において資産の承継手続き方法は、後継者の立場によって異なります。一覧にすると以下のとおりです。
- 親族内事業承継:生前贈与、または相続
- 社内事業承継:売買、または贈与
- M&Aによる事業承継:売買
親族内事業承継では、先代経営者が存命のうちに確実に事業承継したい場合は生前贈与を行います。社内事業承継において後継者の資金が不足していて、なおかつ先代経営者に金銭的余裕があり、どうしても事業を残したい場合に贈与(無償譲渡)が行われることもあります。
事業承継手続きにおける必要書類と費用・税金
ここでは、親族内事業承継、社内事業承継、M&Aによる事業承継、それぞれの手続きにおいて必要となる書類、発生する費用と税金を個別に確認しましょう。なお、記事中の税金の内容や税率は、2024(令和6)年3月現在のものです。
親族内事業承継
まずは、親族内事業承継手続きでの必要書類、税金を確認しましょう。親族内事業承継では、親族である後継者に贈与税または相続税が課されるため、それぞれ個別で解説するとともに、それに関連する事業承継税制も紹介します。
必要書類
親族内事業承継での必要書類は以下のとおりです。
- 遺言書
- 遺産分割協議書(複数の相続人がいて遺言書がない場合)
- 株式譲渡契約書(法人の場合)
- 事業譲渡契約書(個人事業主の場合)
- 生前贈与契約書(複数の相続人がいる場合)
後継者が、相続により事業承継する場合に必要な書類は遺言書です。後継者が生前贈与を受けて事業承継する場合の必要書類は、株式譲渡契約書または事業譲渡契約書になります。生前贈与=無償譲渡する内容の契約書です。
贈与税
先代経営者からの生前贈与で事業承継した後継者には、贈与税が課されます。贈与税は、1月1日から12月31日までの1年間で受けた贈与に課される税金です。贈与税の基礎控除額は110万円ですが、税率は特例税率と一般税率があります。特例税率は以下のとおりです。
基礎控除後の課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~400万円以下 | 15% | 10万円 |
400万円超~600万円以下 | 20% | 30万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
3,000万円超~4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
特例税率は、18歳以上の成人が祖父母または父母から贈与を受けたときに適用されます。次に、贈与税の一般税率は以下のとおりです。
基礎控除後の課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | ― |
200万円超~300万円以下 | 15% | 10万円 |
300万円超~400万円以下 | 20% | 25万円 |
400万円超~600万円以下 | 30% | 65万円 |
600万円超~1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
1,000万円超~1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
1,500万円超~3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
3,000万円超 | 55% | 400万円 |
生前贈与を毎年110万円以内にして計画的に行えば、受贈者には贈与税がかかりません。ただし、自社株式や事業用資産の場合、長い年月を要してしまうでしょう。
相続税
相続税の計算方法は細かな規則があります。ここでは基礎控除額の計算方法と税率の紹介にとどめますが、内容を確認しましょう。
- 相続税の基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人数
基礎控除後の課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | ― |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
贈与税と相続税は税率・控除額ともに異なった構成であり、事業承継で後継者が負担する金額という観点で、事業承継方法を検討する必要もあるでしょう。その理由は、自社株式や事業用資産は、他の遺産のように売却して納税資金にできないからです。
事業承継税制
事業承継税制とは、事業承継のための贈与・相続に限って、納税猶予措置を与え、最終的な手続き次第では納税免除も認められる制度です。事業承継税制は、税負担を嫌って親族内事業承継をためらう後継者を支援するために制定されました。
ただし、手続きは複雑な部分もあり、税理士などへの相談が必要でしょう。
現在、中小企業後継者向けには一般措置と特例措置の2種類があります。特例措置はより有利な内容ですが、2027(令和9)年までの時限措置です。一方、個人事業主向けには現状、2028(令和10)年までの時限措置しか用意されていません。
社内事業承継
続いて、社内事業承継での必要書類および発生する費用・税金を説明します。
必要書類
社内事業承継での必要書類は以下のとおりです。
- 事業譲渡契約書(個人事業主の場合)
- 株式譲渡契約書(法人の場合)
- 株式譲渡承認請求書(譲渡制限株式の場合)
- 株式譲渡承認通知書(譲渡制限株式の場合)
- 株主名簿書換請求書
- 株主名簿記載事項証明書発行請求書
- 株主名簿記載事項証明書
- 株主名簿
基本的に社内事業承継では、後継者は自社株式または事業用資産を先代経営者から買取ります。その契約書は必須の書類です。
また、日本の中小企業のほとんどは、自社株式に譲渡制限を付けています。その場合、会社の承認なしに株主が株式の売却はできません。したがって、株式譲渡承認請求手続きが必要になります。
そして、2006(平成18)年以降に設立された企業は株券不発行会社です。株主が変わったことを示すのは株主名簿だけであるため、会社側に株主名簿を書換えさせ、それを証明する書面を発行させる一連の手続きが必要になります。
費用・税金
社内事業承継では、後継者は自社株式または事業用資産を現経営者から買取らなくてはなりません。したがって、そのための費用が必要です。後継者の自己資金が足りない場合は、事業承継用の融資を行っている金融機関があります。利用を検討するとよいでしょう。
後継者が事業用資産を買取った際に、その中に不動産が含まれていると以下の税金が発生します。
- 消費税10%
- 不動産取得税(土地・建物)3%
- 不動産取得税(住居以外の建物)4%
- 登録免許税(土地)1.5%
- 登録免許税(建物)2%
消費税の税率は購入不動産の買収額に対して、不動産取得税と登録免許税の税率は対象不動産の固定資産税評価額に対してのものです。
後継者に自社株式または事業用資産を売却した先代経営者が、譲渡所得(売却益)を得た場合は税金が課されます。課税対象額(譲渡所得)の計算式は以下のとおりです。
- 課税対象額=売却額-自社株式または事業用資産の取得費用-手数料
計算式内の手数料とは、売却額を決めるために自社株式または事業用資産の時価算定を、公認会計士や税理士、M&Aアドバイザーなどに依頼した場合の手数料のことです。
先代経営者に課される税金は、売却内容によって税率が異なります。まず、自社株式の譲渡所得は分離課税となり、その税率は以下のとおりです。
- 所得税15%
- 復興特別所得税0.315%(2037年までの時限税)
- 住民税5%
- 合計20.315%
事業用資産に不動産が含まれている場合、その譲渡所得は分離課税です。不動産の譲渡所得への課税率は、以下のように2種類に分かれます。短期譲渡所得は所有期間が5年以内の不動産、長期譲渡所得は所有期間が5年超の不動産です。
- 短期譲渡所得の税率39.63%(所得税30%+復興特別所得税0.63%+住民税9%)
- 長期譲渡所得の税率20.315%(所得税15%+復興特別所得税0.315%+住民税5%)
不動産以外の事業用資産の譲渡所得は総合課税です。総合課税の所得税率は以下のとおりですが、それ以外に各所得税率の2.1%該当分の復興特別所得税と住民税10%が課されます。
基礎控除後の課税対象額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円~194万9,000円 | 5% | ― |
195万円~329万9,000円 | 10% | 9万7,500円 |
330万円~694万9,000円 | 20% | 42万7,500円 |
695万円~899万9,000円 | 23% | 63万6,000円 |
900万円~1,799万9,000円 | 33% | 153万6,000円 |
1,800万円~3,999万9,000円 | 40% | 279万6,000円 |
4,000万円以上 | 45% | 479万6,000円 |
なお、社内事業承継において、後継者が先代経営者から自社株式または事業用資産を贈与(無償譲渡)された場合、後継者には贈与税が課されます。また、有償譲渡であったとしても、譲渡額が時価よりも明らかに安い場合、その差額分が贈与とみなされ贈与税の対象です。
親族ではない社員でも、事業承継のために贈与税の対象となった場合は、事業承継税制を活用できます。
M&Aによる事業承継
最後に、M&Aによる事業承継での必要書類と発生する費用・税金を説明します。
必要書類
M&Aによる事業承継では、以下のような書類が必要です。
- M&Aアドバイザーとの業務委託契約書
- 秘密保持契約書
- 財務諸表およびその他の経営に関する資料
- 定款
- 社員名簿
- 顧客リスト
- 取引先リスト
- 基本合意書
- 事業譲渡契約書(事業譲渡の場合)
- 株式譲渡契約書(株式譲渡の場合)
株式譲渡の場合、社内事業承継で説明した株式譲渡承認請求や株主名簿書換に関する書類が必要になります。それ以外にも必要となる書類が生じることもありますので、M&Aアドバイザーへの確認が肝要です。
以下の動画では、M&Aに必要な書類の解説をしています。ご参考までご覧ください。
費用・税金
M&Aによる事業承継では、M&Aアドバイザーに業務委託することがほとんどです。その場合、M&Aアドバイザーの手数料が発生します。各社により手数料の設定は、さまざまです。最大で以下の種類の手数料があります。
- 相談料:事前相談時の費用だがほとんどが無料
- 着手金:業務委託契約締結時に発生
- リテイナーフィー:業務委託契約後、毎月発生するアドバイス料
- 中間金:基本合意時に発生
- 成功報酬:M&A成約時に発生
現在、多くのM&Aアドバイザーは完全成功報酬制となっています。完全成功報酬制の場合、上記の手数料のうち成功報酬しか発生しません。
以下の動画では、M&Aの手数料について解説しています。ご参考までご覧ください。
M&Aの買い手側では、当然ながら買収費用が必要です。その対価を得た売り手側(先代経営者)は、社内事業承継時と同じ内容の税金が課されます。
また、事業譲渡でM&Aを行った場合に不動産が譲渡対象に含まれていれば、買い手側で消費税、不動産取得税、登録免許税が発生するのは、社内事業承継時と同様です。
以下の動画では、M&A時の税金と節税対策を解説しています。ご参考までご覧ください。
以下の動画では、M&A時の節税方法を解説しています。ご参考までご覧ください。
事業承継手続き上のポイント
ここでは、事業承継手続きにおけるポイントを確認しましょう。法人の事業承継と個人事業主の事業承継で共通するポイントと、法人の事業承継でのポイントに分けて説明します。また、事業承継を専門家に相談する場合のポイントについてもまとめました。
法人と個人事業主の事業承継手続き共通のポイント
法人と個人事業主で共通する事業承継手続きのポイントは、以下の4点です。
- 後継者選びと後継者教育
- 親族内事業承継での対策
- 事業承継・引継ぎ支援センターの活用
- 任意後見制度
それぞれのポイントを説明します。
後継者選びと後継者教育
親族内事業承継または社内事業承継を行う場合、まずは後継者選びが重要です。経営者の子どもだから、長く勤めている社員だからといった程度の理由で後継者選びを行うのは、適切ではありません。
経営者としての適性があるかをよく検討し、自分が引退後、真に経営を託せると思える後継者を選びましょう。後継者選定後は、後継者教育が重要なポイントです。まず、後継者と共に事業承継計画を策定します。
その計画に沿って後継者教育を進めることで、後継者自身も進捗状況を把握できるため、スムーズに行えるでしょう。また昨今は、さまざまな機関や会社が、後継者向けの長期セミナー・研修などを開催しています。それらを活用するのも1つの手段です。
親族内事業承継での対策
親族内事業承継において、現経営者の遺産が限られていて相続人が複数いる場合、現経営者の死後の遺産分割により、自社株式や事業用資産が相続人の間で分散してしまう可能性があります。そうなると、後継者は経営が行えないか、行えたとしても非常に不安定な状態です。
現経営者としては、後継者に必要な自社株式や事業用資産は全て後継者が相続できるような取り決めをしておくか、そのような生前贈与を実施するかなどの対策をしておきましょう。
遺言だけでは、後継者以外の相続人が法定相続分を主張した場合、分散の可能性があります。例えば、後継者が経営に必要な遺産は、後継者が買取るといった具体的な取り決めが必要です。
事業承継・引継ぎ支援センターの活用
個人事業主・中小企業の事業承継を専門的にサポートする公的機関が、事業承継・引継ぎ支援センターです。全国の都道府県ごとに設置されており、親族内事業承継でも社内事業承継でもM&Aによる事業承継でも、いずれのサポートも行っています。公的機関ですから、費用もかかりません。
ただし、センターではM&A仲介業は行っていないため、M&Aによる事業承継を目指す場合は、専門家である外部のM&Aアドバイザーへ紹介されます。M&Aアドバイザーや士業事務所など、紹介された外部機関に実務を依頼した場合は、所定の手数料が発生するのは避けられません。
また、センター独自のサービスが、後継者人材バンクです。後継者人材バンクでは、後継者不在の中小企業経営者に対して、事業承継を希望する個人起業家の紹介を行っています。
任意後見制度
現経営者が長く現役でいたい場合、心配な事象として認知症の発症があります。そのような事態への備えとしてあるのが、任意後見制度です。
任意後見制度では、事前に任意後見人と契約しておき、認知症発症のような事態になったら、本人や親族、後見人などが家庭裁判所に申し立てることで、契約内容が履行されます。
契約内容には後見人が代行する法律行為を特定しておくため、その内容を事業承継に関するものにしておけば、もしもの事態でも無事に事業承継を実施できるでしょう。
法人の事業承継手続きのポイント
法人の事業承継手続きでポイントとなるのは、以下の3点です。
- 株式の整理
- 事業用資産の整理
- 会社法の活用
それぞれのポイントを説明します。
株式の整理
中小企業では、オーナー経営者やその配偶者などが自社株式の全てを所有していることが多いです。その場合、事業承継で問題は発生しません。一方、元役員や元取引先などが少数株主として存在している中小企業もあります。
元役員や元取引先などは、連絡がつかないことも多々あるでしょう。後継者の安定した経営のためには、それらの連絡がつかない少数株主の株式も買い集めておくべきです。専門の手続きがありますので、それに従って実施しましょう。
事業用資産の整理
中小企業のオーナー経営者の個人資産を会社の経営に用いている場合、後継者が自社株式を承継しただけでは不十分です。他にも相続人がいる場合、オーナー経営者の個人資産は別の相続人が遺産として相続してしまう可能性があります。
相続、つまりオーナー経営者の死去という事態になる前に、会社がその個人資産を買取っておくべきでしょう。あるいは、相続後に後継者が買取れる約束・契約を結んでおくことです。
会社法の活用
上述した連絡が取れない音信不通の少数株主の株式買取りを例にすると、会社法では、音信不通期間が5年を経過すれば、所定の手続きにより、少数株主の株式買取りが可能です。このように会社法を活用すると、問題を放置せず解決できます。
また、合わせて経営承継円滑化法の特例を活用すると、経営承継円滑化法に定められた方法で都道府県知事からの認可を得ている中小企業であれば、音信不通期間1年で株式買取り手続きができる事業承継の特例が活用可能です。
事業承継手続きを専門家に相談する場合のポイント
事業承継手続きを士業事務所やM&Aアドバイザーなどの専門家に相談する場合、それぞれの専門家の得意ジャンルの相談を行うことがポイントです。以下に事業承継手続きの種類に応じた、適する専門家の例を掲示します。
- 事業承継で生ずる各種税金の相談:税理士
- 事業承継で生ずる法律に関する相談(特に遺言書、遺産分割):弁護士
- 自社株式や事業用資産の価値算定:公認会計士、M&Aアドバイザー
- 各種不足資金の調達:金融機関
- M&Aによる事業承継手続き:M&A仲介会社
以下の動画では、事業承継に関する解説をしています。ご参考までご覧ください。
事業承継手続きの注意点
親族内事業承継、社内事業承継では、後継者選び~後継者教育が完了するまで、長ければ10年を要するともいわれます。現経営者としては自身の気力・体力を見極め、引退時期を見据えて事業承継の準備に入ることが肝要です。端的には、時間的余裕を持って進めることがポイントになります。
M&Aによる事業承継の場合、期間は半年~1年程度要するといわれています。ただし、より良い買い手を見つけるには、それだけ魅力的な経営状態になっていることが重要です。M&Aによる事業承継を目指す場合、買い手探しに入る前段階で、会社・事業の磨き上げがポイントとなります。
事業承継の手続きまとめ
事業承継手続きを円滑に進めるには、各専門家をうまく活用することがポイントです。後継者が決まっている中小企業・個人事業主であれば、公的機関である事業承継・引継ぎ支援センターで無料サポートを受けながら、必要に応じて弁護士、税理士、公認会計士などを起用するとよいでしょう。
後継者不在でM&Aによる事業承継を目指すのであれば、専門家であるM&Aアドバイザーに相談するのが得策です。ほとんどのM&Aアドバイザーが無料相談を実施しているので、その場を活用し自分に合ったM&Aアドバイザーを選びましょう。
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