会社譲渡の手続きの流れとは?事業譲渡との違いや譲渡のメリット・リスクを解説!
会社譲渡とは自社の経営権を第三者へ売却することです。会社譲渡にはメリットも多いですが、必要な手続きが多く包括的に承継するためリスクも存在します。本記事では、会社譲渡の手続きの流れやメリット・リスク、事業譲渡との違いなどを解説します。
目次
会社譲渡とは
会社譲渡とは、自社(対象企業)の経営権を第三者(企業あるいは個人)へ売却することです。
会社譲渡では株式譲渡の手法が用いられるケースが多く、その場合は自社の株式を譲受側企業が取得することで経営権を移転させる流れとなります。
会社譲渡後、譲渡側企業は譲受側企業の子会社(グループ会社)となって存続するため、中小企業では事業承継を目的として行うケースも多いです。
会社譲渡と会社売却の違い
会社売却は文字通り「会社(自社)を売却する行為」を指し、会社譲渡と同じ意味合いの言葉です。
どちらの場合も、譲渡側企業は自社の経営権を譲受側企業へ移転させるかたちとなります。
中小企業では事業承継時に経営者の子どもや親族が後継者となる場合、相続や贈与によって経営権(株式)の移譲されるケースも多いです。
そのような場合は会社譲渡という言い方をすることが多く、一般的に会社売却という場合は有償譲渡を指します。
会社譲渡と事業譲渡の違い
事業譲渡はM&A手法のひとつであり、複数事業を行う会社の事業の一部または全部を対象として第三者へ売却することです。
会社譲渡は経営権を譲受側企業へ移転させるため、通常は株式譲渡の手法によって行われます。
株式譲渡によって行われる会社譲渡では株式の移転、つまり経営権の移転を伴いますが、事業譲渡の場合は事業のみを売買するため株式は移転せず、譲渡側企業の法人格はM&A後も変わりません。
また、会社譲渡では株式を売却するため利益を受け取るのは株主(オーナー経営者など)ですが、事業譲渡の場合は法人(会社)へ売却益がはいります。
そのほか、権利義務の引継ぎ方法にも違いがあり、会社譲渡の場合は特別な手続きをしなくても権利義務が包括的に承継されますが、事業承継では個別に移転手続きが必要です。
会社譲渡と会社分割の違い
会社分割は組織再編に該当するM&A手法であり、分割を行う会社の事業の一部または全部を他社へ承継させる方法です。
承継先となる他社が既存企業である会社分割を「吸収分割」といい、承継先が新設会社である場合を「新設分割」といいます。
会社譲渡も自社を他社へ承継させるという点では同じですが、株式の移譲は有償譲渡で行われ、組織再編には該当しません。
一方で会社分割の場合は分割対価として自社の株式を用いることができ、こちらは会社法上の組織再編に該当します。つまり、会社譲渡と会社分割の違いは組織再編に該当するかどうかという点です。
会社譲渡と合併の違い
合併とは2つ以上の法人格(会社)をひとつの法人格に統合するM&A手法です。合併ではM&A後に存続する会社(存続企業)と権利義務を存続企業へ包括承継した後に法人格が消滅する会社(消滅企業)が存在します。
合併には既存会社が存続会社となる「吸収分割」と、新設会社が存続会社となる「新設分割」があり、合併後は消滅会社の法人格が消滅し解散となる流れは同じです。
合併は対価に株式を用いることができるので、グループ会社が組織再編を行うケースで多く活用されています。
会社譲渡の理由
会社譲渡にはメリットも多いため、さまざまな理由で行われています。ここでは、会社譲渡が行われる主な理由をみていきましょう。
資金獲得
会社譲渡を行うと対価(現金)を受け取ることができます。株式譲渡の場合は株主が売却益を得るため、経営者が全株式を保有している中小企業であれば、まとまった額の現金を経営者個人が得られる点が大きなメリットです。
会社譲渡によって得た利益は、引退後の生活費にしたり新しいことにチャレンジする資金にしたり、自由に使うことができます。
新規事業の立ち上げ
新しい事業にチャレンジしたくなった場合は資金が必要ですが、十分な現金が手元にある経営者ばかりではありません。また、事業内容によっては巨額の費用が必要となることもあるでしょう。
そのため、新規事業の立ち上げ資金を得ることを目的に会社譲渡を行う経営者も多いです。株式評価額は優良な会社ほど高くなるケースが多く、多額の資金が得られる点が会社譲渡の大きなメリットといえるでしょう。
アーリーリタイア
一般的な定年の年齢よりも若い時期に自らの意思で引退することを「アーリーリタイア(アーリーリタイアメント)」といい、アーリーリタイアを実現するために会社譲渡を行うケースもみられます。
アーリーリタイアを実現できれば自由な時間が増えたり経営者としてのプレッシャーやストレスから解放されたりなどのメリットがありますが、廃業となれば従業員や取引先への影響も考えなければなりません。
会社譲渡であれば従業員の雇用や取引先との契約も譲受側企業へ引き継がれるため、安心してアーリーリタイアできることがメリットのひとつです。
業績の停滞や低迷
自社の業績が低迷や停滞している状態が続けば、最悪の場合は倒産に陥るリスクもあります。このような場合、会社譲渡はリスク回避手段のひとつです。
大手企業など経営基盤の安定した会社とのM&Aが実現すれば、会社譲渡後は譲受側企業の子会社となるかたちで、自社を存続させることができます。
M&A後は経営資源をグループ内で相互活用できるので、業績の向上にも期待できるメリットもあります。
会社譲渡の手続きの流れ
会社譲渡のメリットを最大化するためには、想定されるリスクも考慮したうえで戦略的に進めていくことが重要です。
そのためには、会社譲渡の流れと手続きをあらかじめ把握しておく必要があります。ここでは、会社譲渡を行う際の流れや必要手続きについて確認しましょう。
会社譲渡の検討と準備
会社譲渡の実施を検討し始めたら、すぐに具体的な行動へ移すのではなく、まずは会社譲渡の目的はなにか、本当に会社譲渡が最適解なのかなどをしっかり考えることが大切です。
そのうえで会社譲渡を行うことを決断したら、具体的な準備を始めます。この段階では自社の経営状況の把握や他社へアピールできる強み・魅力を資料にまとめるなどを行っておくとよいでしょう。
M&Aアドバイザーとの契約
会社譲渡を成功させるためには、まず自社の希望条件に合う交渉相手を探さなければなりません。
また、M&Aプロセスを進めていくうえでは、M&Aに関する知識やノウハウも必要となるため、M&A仲介会社などの専門家へサポートを依頼しましょう。
M&A仲介会社はM&A支援を専門に手がけており、相手先探し・契約書などの作成・企業価値評価・交渉など、会社譲渡の流れで必要な手続きをサポートしてくれるので、安心して進めていくことができます。
企業価値評価
企業価値評価はM&Aの価額交渉時にベースとなる額を算出することで、実務上ではバリュエーションと呼ぶことも多いです。
企業価値はつまり「会社(事業)の値段」ということですが、評価方法にはいくつかの種類があります。評価方法にはそれぞれ特徴があり、自社に合った方法で算出を行うことがポイントです。
また、この段階で交渉相手探しで必要となる企業概要書も作成しておきます。企業概要書は自社の強みを譲受候補先企業へ伝えるための書類です。
企業価値評価や企業概要書の作成は、M&Aアドバイザーのサポートを受けながら進めていきましょう。
交渉相手探し
会社譲渡の交渉相手は、希望条件に合っているかだけでなく、社風や経営理念・M&Aによって得られるであろうメリットなども考えて選定します。
事前に交渉相手の業種や希望条件などをM&Aアドバイザーへ伝えておくと、条件に合った企業を複数社リストアップしてくれるので、上記条件などで絞り込んでいくとよいでしょう。
この段階では譲渡側企業・譲受側企業ともに社名や詳細な所在地、具体的な事業内容などは伏せた大まかな情報のみを知ることができます。
これは情報漏洩を防ぐためであり、詳細情報の開示は交渉を行うことが決まって秘密保持契約を締結した後です。
また、交渉相手を選定するときはM&Aが成立した後の流れなどもイメージすると、より絞り込みがしやすくなります。
秘密保持契約・交渉開始
譲受側候補となる企業にM&A交渉を打診し、相手もM&Aに前向きであったら秘密保持契約を締結します。譲渡側企業は企業概要書を提出して情報開示を行います。
企業概要書には譲渡企業の財務情報・主な取引先・事業に関する独自技術やノウハウ・役員構成など多くの秘密情報が含まれるため、秘密保持契約書を結ぶことが不可欠です。
譲受側企業は譲渡側企業から提出された企業概要書によって、本格的な交渉へ進むかを判断します。
トップ面談
トップ面談では双方の企業のトップ(経営者)が直接会い、会社を任せる(会社を譲受する)のにふさわしい人物なのか、企業風土や経営理念はかけ離れていないかなど、書面上では伝わりにくい部分を確認します。
また、信頼関係を構築し相互理解を深めることもトップ面談を行う重要な目的です。この段階で信頼関係が築けなければ、満足度の高いM&A実現は難しくなります。
そのため、価額など具体的な交渉は行わず、互いの人間性やM&A後のビジョンなどを確認することを意識して臨むようにしましょう。
基本合意書
トップ面談後さらに交渉を進め、ここまで交渉したM&Aの条件・内容に互いが大筋で合意した段階で基本合意書の締結を行います。
基本合意書に記載する主な内容は、M&Aの諸条件・譲渡価額・完了までのスケジュール・独占交渉権の付与・デューデリジェンスに関する事項などです。
この段階ではまだM&Aの成立しているわけではないため、基本合意書に法的な拘束力はありません。
ただし、独占交渉権の付与やデューデリジェンスに関する内容については譲受側企業のリスクを回避するために法的拘束力を持たせるのが一般的です。
デューデリジェンス
基本合意書に行われるデューデリジェンスでは、譲受側企業が譲渡側企業の法務・財務・人事などの実態を専門家が調査します。
デューデリジェンスの目的は、M&Aによるリスクの程度や想定されるデメリット、事前開示された情報の正確性などを確認することです。
譲受側企業はデューデリジェンスの結果によりM&Aの最終交渉へ進むか否かを判断します。譲渡側はデューデリジェンスに協力を求められたら誠実に対応することが重要です。
もし重大な問題や隠ぺいしていた事実などが発覚した場合は、M&A交渉が中止となる流れもあります。
最終交渉
デューデリジェンスの結果を踏まえ、譲受側企業がM&A実行を決定したら最終交渉へ進み、価額や条件のすべてに双方が合意したらM&Aが成立します。
なお、最終交渉ではデューデリジェンスの結果により、譲渡価額や諸条件が変更される可能性があることをあらかじめ理解しておきましょう。
株式譲渡承認請求(譲渡制限株式の場合)
中小企業の場合、株式に譲渡制限が設けられていることが多いです。このような株式を譲渡制限株式といい、譲渡を行う場合は保有株主が「株式譲渡承認請求書」を記載して、譲渡に対する承認請求手続きを行う必要があります。
このように、譲渡制限株式は手続きを経なければ譲渡できませんが、中小企業では経営者が全株式を保有しているケースも多く、その場合は自身の承認手続きのみで行うことが可能です。
取締役会または株主総会決議
株式譲渡承認請求を行ったら、次は取締役会あるいは株主総会決議により承認決議を得なければなりません。
どちらの手続きが必要かは会社の状況によって変わり、取締役会を置いている場合は取締役会による決議、取締役会を置いていない会社であれば臨時株主総会を開催して決議を得る流れとなります。
株式譲渡契約
会社譲渡について取締役会あるいは株主総会での承認が得られたら、株式譲渡契約書を作成して譲受側企業・譲渡側企業とで締結します。
M&Aの最終契約書(会社譲渡の場合は株式譲渡契約書)は、記載内容のすべてに法的拘束力があるため、作成時は法的な問題やリスクがないかなどを弁護士に確認してもらうことが重要です。
また、株式譲渡契約書を締結した後は、特段の認められる理由がない限り、一方的に契約を破棄することはできません。
株主名簿書換請求
株式譲渡によって会社譲渡を行った場合は、株主名簿の書き換える手続きが必要です。そのため、株式譲渡契約書を締結したら、次に「株式名義書換請求書」を作成し、譲受側企業と譲渡側企業が共同で請求の手続きを行います。
株主名簿記載事項証明書交付請求
株主名簿の書き換え手続きが済んだら、次は株主名簿記載事項証明書の交付を請求します。株主名簿記載事項証明書は、株式譲渡が行われ株主が変更されたことを法的に証明するものです。
ここまでの手続きが完了したら会社譲渡が成立し、以降は決済手続きや株式の引き渡しなど、譲受側へ経営権を移転させる具体的な手続きを進めていきます。
会社譲渡の公表
会社譲渡の実行が確実になった段階で、関係先へ会社譲渡を行うことを公表します。主な公表先は従業員・主要取引先・借入(融資)を行っている金融機関などですが、個々の事情によっても変わるのでM&Aアドバイザーに確認するとよいでしょう。
また、公表は適切なタイミングで行うことが重要なので、どのような流れで行うべきかも合わせて相談しておくと安心です。
そして、関係先へ会社譲渡を行うことを公表するときは、会社譲渡の目的や背景、M&A後の展望、従業員に対しては処遇についてなど、理解が得られるよう丁寧に説明します。
クロージング(会社譲渡の効力発生)
クロージングとは、譲渡対価の支払い手続きと株式等の引き渡しを行い、譲受企業側へ譲渡企業の経営権を移転させることをいいます。M&A手法によってクロージングで行う手続きは変わりますが、大まかな流れはどの手法でも同じです。
クロージングを迎えるためには、M&Aの最終契約で取り決めた前提条件(クロージング条件)を譲渡側企業が満たしている必要があります。
そのため、最終契約締結日からクロージング実行日までは、譲渡企業が準備できるよう一定期間空ける場合が多いです。
なお、クロージング実行予定日までに譲渡側企業が前提条件を満たせなかった場合は、実行日の延期や、その理由によってはM&A取引が中止となる可能性もあります。
引継ぎとPMI
クロージングをもって会社譲渡を行うM&Aの流れは完了となり、その後は譲受側企業・譲渡側企業が共同で事業を進めていくこととなります。そのため、会社譲渡後の事業を円滑に進められるよう、クロージング後はPMIと呼ばれる統合作業が必要です。
PMIは経営・業務・意識の3つすべてを統合しなければならず、PMIがうまくいかなければ想定していたメリットやシナジー効果が得られなかったり、人材が流出してしまったりする可能性があります。
PMIはこのようなリスクを最小限にとどめ、M&Aによる効果・メリットを最大化することが目的です。M&Aが成立してもPMIが失敗すれば、本当の意味でM&Aが成功したとはいえません。
それほどにPMIは重要なプロセスですが、丁寧に進めなければ従業員の離職や反発につながるリスクもあります。
PMIを成功させるために、譲受側企業は交渉段階からどのような流れでPMIを進めていくかを譲渡側企業と協議しておくことが必要です。また、譲渡側企業の経営者は事業運営に関するノウハウなどを丁寧に引き継ぐ必要があります。
会社譲渡手続きの必要書類
会社譲渡の手続きを行うには、さまざまな書類が必要です。ここでは、会社譲渡時に必要となる書類を紹介しますが、書類作成時は各専門家へ相談し記載内容に間違いがないかを確認してください。
株式譲渡承認請求書
譲渡制限株式を譲渡する際に必要となる書類です。株式譲渡承認請求書には、株式の発行者である会社名と代表者の氏名・株主の氏名および住所・譲渡先の氏名および住所・譲渡株式数などを記載します。
なお、譲渡制限株式は、株式譲渡承認請求書を承認期間へ提出し、その承認を得なければ第三者へ譲渡することはできません。
取締役決定書
取締役会を置いていない会社が、自社(または事業)にかかわる重要事項の決定を取締役が行ったことを証明するものです。取締役決定書は取締役会を置いている会社の「取締役会議事録」と同じ役割を持ちます。
会社譲渡に伴い譲渡制限株式を第三者へ譲渡する場合、取締役会を置いていない会社では臨時株主総会での承認が必要です。その臨時株主総会の開催を開くには、株主総会の招集についての取締役決定書が必要となります。
臨時株主総会招集通知
前述したように、臨時株主総会の開催を開くには株主総会の招集についての取締役決定書が必要であり、臨時株主総会招集の通知は株主に開催を知らせる書面です。
自社に取締役会の設置がなく、会社譲渡に伴う譲渡制限株式の譲渡承認決議に関する臨時株主総会を開く場合、株主に対して開催日時・場所・当日の議題などを通知します。
臨時株主総会議事録
臨時株主総会での議事内容や結果、総会中に株主から述べられた意見(会社法の規定に基づく内容)などを記録したものです。
臨時株主総会を開いた場合は議事録の作成が必要であり、書面あるいは電磁的記録のどちらかで作成します。
株式譲渡承認通知書
株式譲渡承認請求書についての返答を記載した書類であり、請求を行った株主に対して送られます。
会社譲渡を行う場合、取締役会あるいは臨時株主総会で株式譲渡について決議しますが、株式承認通知書は「株式の譲渡を承認した」ことを株主に通知するものです。
なお、株式譲渡承認の請求を受けてから2週間以内に通知を送らなかった場合、譲渡を承認したものとみなされます。
株式譲渡不承認通知書
株式承認通知書と同じく、株式譲渡承認請求書についての返答を記載した書類ですが、株式譲渡不承認通知書は請求された株式譲渡を承認しない決定を通知するものです。
株式譲渡契約書
株式譲渡契約書は、会社譲渡について譲受側企業と譲渡側企業が最終合意した後に、譲渡価額や諸条件などの契約内容を記載して締結する書面です。
株式譲渡契約書には、譲渡側企業の社名および情報・株主の氏名と住所・譲渡株式数・譲渡価額・譲受先の名称および住所などを記載します。
株主名義書換請求書
会社譲渡時に株式譲渡を行った場合は、株主名簿の書き換え手続きが必要です。株式名義書換請求書は、会社に対して株主名簿の書き換えを請求する際に使用します。
また、株主名簿の書き換えを請求する際は、譲受側企業・譲渡側企業が株式名義書換請求書を共同作成し、手続きを行わなければなりません。
株主名簿
各株主についての基本情報が記載された名簿のことであり、株式会社は設立時に株主名簿を作成することが会社法で義務付けられています。
株主名簿には株主の氏名・住所・保有している株式数・株式取得日などの情報を記載し、情報に変更があった場合は更新手続きが必要です。
株主名簿記載事項証明書交付請求書
会社に対し、株主名簿記載事項証明書の交付を請求する際に使用する書類です。宛名・請求人(株主)・請求日などの必要事項を記載して交付を請求手続きを行います。
株主名簿記載事項証明書
株式を譲渡する側が、当該株式の保有者が自身であることを証明する書類で、会社譲渡を行う際は株式を譲渡するときに譲受側に対して提出するものです。
株主名簿記載事項証明書には、株主名簿に記載された情報と内容に間違いないことの証明が記されます。
会社譲渡の相談先
会社譲渡を行うと決めても、中小企業の場合は過去にM&Aの実施経験があるケースはほとんどないため、どのような流れで進めていくのか、準備すべきことはなにかなど、疑問点や不安点も多いはずです。
そのような不安や疑問を解決し、スムーズに会社譲渡を進めるためにも、実施前に専門家へ相談しておきましょう。ここでは、主な会社譲渡の相談先を紹介します。
M&A仲介会社
M&A仲介会社はM&A支援業務を専門に行う会社です。M&A仲介会社にはノウハウ・支援経験をもつアドバイザーが在籍しており、会社譲渡の初期相談から成約までの流れをサポートを行います。
弁護士や会計士などの士業が在籍しているM&A仲介会社もあり、一貫支援を手がけるところも多いです。M&A仲介会社は、譲受側企業・譲渡側企業の双方に同一アドバイザーが就き、中立の立場で会社譲渡の成約に向けて一連の流れを取りまとめます。
このような方式を「仲介型」と呼び、中小企業の会社譲渡に向くといわれる支援方式です。メリットとしては専門的な支援が受けられる点のほか、譲受側企業・譲渡側企業の双方から報酬を得るため、後述するFA方式より手数料が安くなることも挙げられます。
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、譲受側企業・譲渡側企業のどちらかとアドバイザリー契約を結び、依頼者の利益やメリットの最大化を目指して会社譲渡の交渉をサポートします。
M&A仲介会社とFA(ファイナンシャル・アドバイザー)はどちらもM&Aにおける一連の流れをサポートしますが、両者の大きな違いは支援を行う立ち位置です。
FA(ファイナンシャル・アドバイザー)は依頼者の利益・メリットの最大化を目的として支援を行うため、上場企業や海外M&A(クロスボーダーM&A)で多く活用されています。
また、手数料は契約を結んだ側からのみ得るため、M&A仲介会社よりも高くなるケースが一般的であり、中小企業の会社譲渡でFA(ファイナンシャル・アドバイザー)に依頼することはあまりありません。
金融機関
金融機関でも会社譲渡などのM&Aに関する相談を行うことができます。最近ではメガバンクや大手地方銀行だけでなく、信用金庫や第二地方銀行でもM&A支援を行うところが増えてきました。
普段から取引のある金融機関であれば会社譲渡について相談しやすいことや、融資など資金調達について専門的なアドバイスが得られるメリットもあります。
ですが、メガバンクや大手銀行は大型M&A案件を主に取り扱うことが多く、中小企業の会社譲渡には対応していない可能性がある点がデメリットです。
士業事務所
会計士・税理士・弁護士の士業事務所でも、会社譲渡などM&Aに関する相談を行っているところもあります。各士業には専門分野があり、それぞれの専門知識やノウハウを生かした会社譲渡の支援が受けられる点がメリットです。
具体的には、税理士であれば税務関係書類の作成や税金対策についてのアドバイス、会計士であればデューデリジェンスでの会計調査や企業価値評価、弁護士は会社譲渡の手続きで必要な契約書作成時のリーガルチェックや法務面のデューデリジェンスを担当します。
士業事務所によっては、会社譲渡などM&Aの手続きを包括的に支援しているところもありますが、本来M&A支援が専門ではないため、サポート範囲が限定されたり実績が十分でなかったりする可能性があるでしょう。そのため、相談時にどのような支援が可能なのかを確認しておくと安心です。
事業承継・引継ぎ支援センター
事業承継・引継ぎ支援センターは、国が設置している支援窓口です。中小企業・小規模事業者が円滑に事業承継を行えるよう、相談や専門家への橋渡しなどを行っています。
国が運営しているので無料で利用することができ、中小企業診断士や税理士などの専門家から手続きなどのアドバイスが得られる点が大きなメリットです。各都道府県に相談窓口があり、M&Aによる事業承継についての相談にも対応しています。
ただし、会社譲渡の交渉など具体的な支援は行っておらず、必要に応じて提携先の専門家へ橋渡しを行うため、スピード感という点では民間の支援業者に劣る部分がデメリットといえるでしょう。
商工団体
全国の商工団体でも会社譲渡の流れや手続きについて相談することができます。商工団体に該当するのは、商工会議所・商工会・中小企業団体中央会・商店街振興組合で、地域に根ざした支援を受けられる点がメリットです。
各団体への相談は無料ですが、利用するためには会員になる必要があります。入会費や年会費などの費用がかかる点や、M&A支援が専門ではないため会社譲渡のノウハウ・実績が乏しかったり、サポート範囲が限定されやすい点がデメリットといえるでしょう。
M&Aマッチングサイト
M&Aマッチングサイトは、M&A案件をサイト上で探せるプラットフォームで、その多くはM&A仲介会社が運営しています。M&Aマッチングサイトへの登録手続きを行えば、全国の案件から会社譲渡の相手先を好きな時間に探せる点がメリットです。
また、基本的には交渉相手探し・交渉・契約手続きなど会社譲渡の流れを自身で進めるため、費用負担を抑えられるメリットもあります。その一方で、情報漏洩のリスクがあったりM&Aの知識が必要になったりする点がデメリットです。
ですが、多くのM&Aマッチングサイトでは、運営元のM&A仲介会社に手続きの支援を依頼することもできるので、上手に活用すればリスク回避しつつ、費用負担を抑えられる可能性もあります。
個人事業主や小規模事業者がM&A案件を探すのに向いていますが、個人事業主の場合は株式がないため事業譲渡スキームしか使用できないため注意が必要です。
M&A支援機関登録制度
M&A支援機関登録制度は中小企業庁が創設した制度であり、中小企業が安心・安全にM&Aが行えるよう、要件を満たしたM&A支援業者のみが登録されています。
この制度に登録されたM&A支援事業者は、要件を満たしたうえで「中小M&Aガイドライン」の遵守を宣言していることが前提です。
中小企業にとっては、M&A支援機関登録制度に登録された支援事業者を利用することで安心してM&Aが進められるメリットがあります。
なお、会社譲渡時に事業承継・引継ぎ補助金を活用する場合は、M&A支援機関登録制度に登録された支援事業者でなければ補助対象とはならないため注意が必要です。
会社譲渡の相場価額と企業価値評価
会社譲渡に限らず、M&Aの場合は交渉によって最終的なM&A価額が決まります。そのため、業種や企業規模などで会社譲渡の相場が決まっているわけはありません。
とはいえ、譲受側企業・譲渡側企業が互いに言い値で交渉するわけではなく、企業価値評価額をベースに価額交渉を行うのが一般的です。
企業価値評価には主に以下の方法があり、それぞれ異なる特徴をもつため方法によって評価額が変わるケースもあります。どの評価方法が最適なのかを判断するには専門的な知識が必要であるため、M&Aの専門家に依頼して進めていくようにしましょう。
簡易的な算定方法・年買法
年買法は「時価純資産総額+営業利益の数年分」を企業価値評価と考える方法です。営業利益に乗じる年数は任意で設定できますが、実務上では3年から5年の間で決めるケースが多くみられます。
営業利益ではなく当期利益や計上利益を用いて算出することもありますが、いずれの場合も簡易的に企業価値を算定する方法です。
簡単な計算式で会社譲渡の大まかな相場を知ることができますが、時価純資産額に何を加算するかによって評価額が変わるため、客観性に乏しいというデメリットもあります。
そのため、実際のM&Aにおいて年買法を使用する場合は、譲受側企業・譲渡側企業の双方が納得できる基準によって企業価値を算出することが大切です。
時価純資産法
時価純資産法は、コストアプローチと呼ばれる企業価値評価方法のひとつであり、「時価資産額-時価負債額」を企業価値と考えるものです。評価時は、会社譲渡を行う企業の財務諸表の数字をそのまま使用するのではなく、時価換算した数字を用います。
財務諸表上の数字を使用して企業価値を算出するため、客観性が高く納得しやすい評価となる点がメリットです。その反面、時価換算に誤りがある場合は適正な評価ができず、また会社譲渡を行う企業の将来的な収益性は加味されないデメリットもあります。
類似会社比較法(マルチプル法)
類似会社比準法(マルチプル法)では、会社譲渡を行う企業と業種・規模・事業が類似する上場企業を選び、相対比較することで企業価値を算出します。
客観性の高さや市場動向が反映される点がメリットですが、類似企業の選び方を間違えると実態と評価に大きな隔たりが生じることがデメリットです。
類似会社比準法(マルチプル法)での算出では、類似する上場企業の企業価値が指標の何倍であるかを求めたうえで平均を割り出し、会社譲渡を行う企業に平均倍率を乗じます。
式で表すと「評価対象企業の特定指数(KPI)×平均倍率」となり、指標として用いるのはEV/EBITDA倍率・PBR・PER・売上高倍率のいずれかであることが多いです。
DCF法
DCF法は、企業の予測フリーキャッシュフローをベースに企業価値を評価する方法です。投資など企業が自由に使うことができる資金をフリーキャッシュフローといい、フリーキャッシュフローが多い企業ほど優良であると判断されます。
簡単にいえば、DCF法は「〇〇円で買収(投資)したら将来予測されるリターンはいくらなのか」という考え方であり、M&A以外に投資を行うときに活用されることも多いです。
企業の将来性が反映されるというメリットはありますが、予測の根拠となる事業計画の精度や信頼性が低い場合は適性な企業評価とならないデメリットもあります。
会社譲渡のメリット
会社譲渡には、さまざまなメリットがあります。ここでは、会社譲渡で期待できる主なメリットについてみていきましょう。
手続きが簡便
会社譲渡では株式を譲渡することで譲受側企業へ経営権を移転させますが、株式譲渡はM&A手法のなかでも手続きが簡便です。
M&Aでは事業譲渡も多く用いられますが、事業譲渡の場合は譲渡対象について個別に手続きを行わなければなりません。
一方で株式譲渡の場合は、株式の移転と対価の支払い手続きを行い、株主名簿を書き換えればM&Aが完了します。また、手続きが簡便なので比較的短期間でM&A完了となるのもメリットのひとつです。
事業承継の実現
後継者候補がいないという理由で事業承継が難しい場合、会社譲渡によって自社を第三者へ引き継ぐことができます。
会社譲渡は事業承継にも活用できる方法であり、中小企業であれば事業承継税制や事業承継・引継ぎ補助金を活用することで負担を抑えて事業承継を行うことが可能です。
後継者不在で廃業を検討している企業にとって、会社譲渡は大きなメリットがあるといえるでしょう。
対価の獲得
会社譲渡の場合は自社の株式を売却するため、その利益は株主が得ることとなります。中小企業の場合は全株式を経営者が保有しているケースも多いので、対価としてまとまった額の現金を獲得することも可能です。
引退後の生活に不安があり事業承継できずにいるケースでも、会社譲渡を活用すれば安心してリタイアできます。
従業員・取引先・顧客との関係維持
会社譲渡の多くは株式譲渡によって行いますが、株式譲渡では譲渡側企業の権利・義務が譲受側企業へ包括的に承継されます。
従業員の雇用や取引先との契約、顧客情報なども譲受側企業へ引き継がれるため、関係先への大きな影響がない点がメリットです。
経営の安定化と業績向上
会社譲渡では、譲受側企業が譲渡側企業よりも規模が大きいケースが多いです。会社譲渡後、譲渡側企業は譲受側企業の傘下(子会社)となって事業運営を行いますが、リソースを相互活用できるので経営の安定化や業績向上に期待できるメリットがあります。
経営者保証の解除
中小企業が金融期間から融資を受ける場合、経営者個人が連帯保証を負ったり担保を差し入れていたりするケースがほとんどです。
連帯保証や担保の差し入れは経営者にとって大きな負担となるものであり、親族内承継や社内承継では後継者がこれらを引き継ぐにはリスクも大きく、事業承継時の弊害になるケースも多々みられます。
会社譲渡のメリットは、経営者保証も譲受側企業へ引き継がれることです。ただし、会社譲渡を行ったからといって、連帯保証や担保の差し入れが自動的に譲受側企業へ切り替わるわけではなく、解除するためには金融機関での手続きを行う必要があります。
解除手続きが完了するまで経営者はリスクを負ったままなので、会社譲渡後はできるだけ早めに金融機関で手続きを行っておきましょう。
会社譲渡のリスク
会社譲渡の実施を検討する際は、メリットだけでなくデメリットも考慮しておくことが重要です。
想定されるデメリットを考慮したうえで会社譲渡を行ってしまうと、トラブルや失敗の要因ともなり得るため、事前によく理解しておきましょう。
ロックアップ
ロックアップとは、譲渡側企業の経営者や役員などが会社譲渡後の一定期間は会社に留まることを取り決めるものです。
キーマンロックと呼ぶこともあり、M&Aの最終契約ではロックアップを取り決めるケースが多くみられます。
譲受側企業がロックアップを取り決める目的は、会社譲渡後の引継ぎを行って事業運営を円滑に進める体制を整え、リスクを最小化するためです。
ロックアップの期間は3年程度とするケースが多いですが、一定期間は自由が制限されるためデメリットと感じる経営者もいるでしょう。
表明保証違反
会社譲渡では、基本合意締結後に譲受側企業がデューデリジェンスを行い、リスクや問題点を考慮したうえでM&A実行を判断します。
ですが、デューデリジェンスは限られた期間内で行うため、すべてのリスクや問題点を把握するのは難しいのも事実です。
会社譲渡後に問題点が発覚する場合もあるので、譲受側企業はそのリスクを回避するため最終契約書には表明保証事項を盛り込みます。
表明保証とは、一定時点での契約当事者あるいは契約対象に関する内容・事項が真実かつ正確であることを表明することです。
万一、表明保証に違反した場合、譲受側企業は譲渡側企業に対して損害賠償請求を行うことができ、違反した内容が重大であるときは契約に定めがあればM&Aを白紙撤回することができます。
従業員や役員の待遇変更
会社譲渡では、特別な手続きを行わなくても従業員の雇用は譲受側企業へ引き継がれます。そのため、基本的に従業員や役員の待遇が会社譲渡時に変更されたり悪化したりすることはありません。
ですが、会社譲渡後、譲渡側企業は譲受側企業の経営方針に沿って事業を行うため、雇用契約の内容や待遇が変更されることも考えられます。
会社譲渡では譲受側企業の規模が大きいケースがほとんどなので、雇用契約の内容や待遇がよくなることも多いですが、譲渡側企業の経営者は交渉時に譲受側企業とよく話し合っておくことが重要です。
社名変更
譲渡側企業の社名は会社譲渡後も変更されないケースが多いですが、譲受側企業の方針・意向によっては社名変更が行われることもあります。
たとえば、譲受側企業が「〇〇グループ」と呼ばれるような企業グループの場合、グループ各社に〇〇を統一して入れていれば、会社譲渡後に社名が変更される可能性が高いです。
また、社名変更が行われるケースでも、自社ブランド名が社名に入っている場合などは、ブランド名が残ることもあります。
交渉相手が見つからない
業種や希望条件、会社譲渡を行うタイミングによっては交渉相手がみつかるまでに時間がかかる可能性もあります。なかには、会社譲渡を予定している時期までに、交渉相手がみつからなかったというケースもあるでしょう。
それだけ魅力的な企業であっても、希望条件の範囲が狭すぎたり景気が低迷している時期だったりする場合、交渉先探しが難しくなることもあります。
会社譲渡を行うときは、そのような可能性があることも考慮したうえで、早期から準備を進めておき、よい相手先がみつかったタイミングに備えておくことも重要です。
また、希望条件を見直すことで交渉先がみつかる可能性もあるので、どうしても相手先がみつからない場合は検討してみましょう。
会社譲渡の成功確度を上げるには
会社譲渡を行う経営者であれば、満足度の高いM&A実現を目指すものですが、M&Aは手続きさえ行えば成功するというものではありません。
では、どのような点を意識して進めていけば、会社譲渡の成功率を上げられるのでしょうか。ここでは、会社譲渡の成功率を上げるポイントを紹介します。
事前準備
会社譲渡を成功させるために重要なのは、事前準備をしっかり行っておくことです。どれだけ魅力のある企業でも、事前準備をおろそかにすれば満足度の高い会社譲渡の実現が難しくなるでしょう。
また、事前準備段階で会社譲渡を行う目的の明確化や希望条件の優先順位付けをしておかなければ、M&A交渉時に判断を誤る可能性もあります。
磨き上げ
企業価値評価が高い企業は会社譲渡の相手先がみつかりやすくなるだけでなく、高値での売却が実現する可能性も上がります。
そのため、会社譲渡を行う前に「磨き上げ」を行い、企業価値を高めておくことも成功のポイントです。
磨き上げには、技術力など自社の強みを高めたり従業員教育を行ったりなど、さまざまな方法があります。
短期間で行うのが難しいものもありますが、可能な部分から磨き上げを行い、収益力向上など企業価値を高めておくことが重要です。
財務のチェック
会社譲渡を成功させるためには、事前に自社の財務状況を確認しておくことが重要です。中小企業の場合、未払い残業代や買掛金などの簿外債務があるケースも多くみられますが、会社譲渡前に財務状況を確認し処理が必要なものは対応しておく必要があります。
譲受側企業は、財務状態が健全でない企業を取得したいとは考えないのが普通です。財務処理に問題がある場合は会社譲渡を行う前に改善し、対応が難しい場合は故意に隠すことはせず事実を相手先へ伝えるようにしましょう。
適正な企業価値評価
会社譲渡を行う経営者であれば、誰でも少しでもよい条件・高値でのM&A成立を目指すものです。
M&Aでは交渉前に希望譲渡価額を提示しますが、適正な価値とかけ離れた金額であれば交渉先がみつからなかったり、交渉がまとまらなかったりする可能性が高くなるでしょう。
また、自社の適正な企業価値を知っておけば、いわゆる「買いたたき」を防ぐことにもつながります。
M&Aアドバイザーの起用
会社譲渡に必要な手続きや交渉には、専門的な知識や経験が不可欠です。M&A仲介会社などの専門家に依頼すれば費用はかかりますが、リスクを抑えて最大限メリットを得るにはM&Aアドバイザーのサポートが役立ちます。
また、会社譲渡の手続きは通常の事業運営と並行して進めていくため、経営者にとって負担も大きいものです。M&Aアドバイザーは会社譲渡の書類作成など必要な手続きもサポートしてくれるので、負担を軽減しながら進めていくことができます。
会社譲渡の税金
会社譲渡で得た利益には税金が課されますが、個人株主と法人株主とでは税金の種類や課税方法が異なります。ここでは、会社譲渡時にかかる税金の種類や税率について、確認しておきましょう。
個人株主の税金
譲渡者が個人株主の場合は、所得税・住民税・復興特別所得税(2037年12月31日まで)が株式譲渡取得に対して課されます。
分離課税方式での課税となり、税率は所得税が15%、住民税が5%、復興特別所得税が0.315%で、合計20.315%です(2021年6月時点の税率)。
法人株主の税金
譲渡者が法人株主の場合は、法人税・法人事業税・法人住民税・地方法人税が株式譲渡所得に対して課されます。
株式を譲渡して得た利益は事業所得と同様に計算され、法人税率はおよそ30%です。また、法人税は総合課税方式での課税となり、損益通算が認められています。
会社譲渡の税務トラブル
会社譲渡の価額は交渉で決まりますが、適正価額より著しく低い額(または高い額)で売却した場合は税務トラブルの要因となるため注意が必要です。ここでは、会社譲渡時に起こり得る税務トラブルについて説明します。
第三者間取引
第三者間取引とは、友人や知人との取引や第三者同士で行われる取引を指します。一般的な第三者間取引では、売却価額を当事者間で話し合って決めることが多いです。
その売却価額が適正と認められる範囲であれば問題ありませんが、実際の価値(企業価値)より著しく低い価額で取引が行われた場合は贈与あるいは寄附とみなされます。
また、適正価額より著しく高い場合、一定額を超えた寄附金額は損金算入が認められません。
関係会社間取引
特定企業に対する影響力を持つ企業のことを関係会社といい、会社譲渡の相手先が関係会社である場合は関係会社間取引に該当します。
関係会社間取引においても、実際の価値(企業価値)より著しく低い価額で取引が行われた場合は贈与あるいは寄附とみなされるため注意が必要です。ただし、第三者間取引と同様、適正と認められる範囲であれば問題ありません。
M&Aアドバイザーの手数料
会社譲渡を行う際、M&A仲介会社へ交渉や手続きなどの支援業務を依頼した場合は手数料がかかります。ここでは主な手数料を紹介しますが、M&A仲介会社の手数料体系は会社によって違うため、必ずしもすべての手数料がかかるわけではありません。
相談料
M&A仲介会社に会社譲渡の支援業務を正式依頼する前に行う相談にかかる手数料です。ですが、相談料が必要なM&A仲介会社はあまりありません。
リテイナーフィー
M&A仲介会社へ毎月支払う定額顧問料のことで、アドバイザリー契約を結んでから契約完了までの間は手数料が毎月発生します。リテイナーフィーは、担当M&Aアドバイザーの力量などによって変わるケースが多いです。
M&A成立までの期間が長いほど、当然リテイナーフィーの総額は高くなるので、契約前に手数料体系をよく確認しておきましょう。また、リテイナーフィーを設定していないM&A仲介会社も多いです。
着手金
M&A仲介会社に支援業務を正式に依頼し、アドバイザリー契約を結んだ時点で発生する手数料です。
着手金が設定されている場合、M&A仲介会社によって金額は変わり、M&Aの成否にかかわらず返還されません。最近では、着手金を設定していないM&A仲介会社も多いです。
中間金
M&A交渉が一定段階に達した時点で発生する手数料で、基本合意成立時を中間金の発生タイミングとするM&A仲介会社が多くみられます。
中間金は成功報酬の一部という意味合いもあり、成約に至った場合は成功報酬から差引くM&A仲介会社がほとんどです。また、中間金は最終的にM&Aが成立しなかった場合も返還されません。
デューデリジェンス費用
基本合意締結後に行われるデューデリジェンスにかかる費用で、調査範囲(調査を行う分野数)が広いほど高くなります。
デューデリジェンスは譲受側企業が譲渡側企業に対して行うため、費用負担が生じるのは譲受側企業のみです。
成功報酬
M&Aが成立した時点で生じる手数料で、レーマン方式という算出方法を採っているM&A仲介会社がほとんどです。M&A仲介会社へ支払う手数料のなかでは、最も高額となります。
レーマン方式
レーマン方式は、算出基準となる額に一定料率を乗じて成功報酬を計算する方法です。算出基準となる額には以下の4つあり、何を基準とするかによってM&A最終価額が同じであっても手数料額が変わります。
- 譲渡価額:M&A価額(譲受側企業が支払った対価)を算出ベースとする
- 企業価値:株式価額に有利子負債を加算した額を算出ベースとする
- 移動総資産額:株式価額に負債総額を加算した額を算出ベースとする
- オーナー受取額:譲渡価額に役員や経営者の親族からの借入分を加算した額を算出ベースとする
上記4つのなかでは、譲渡価額を算出ベースとするレーマン方式が最も手数料額が低く、最も高くなるのは移動総資産額を算出ベースとするレーマン方式です。
また、下の表は一般的なレーマン方式の手数料率ですが、算出基準額が高くなるほど乗じる料率は小さくなります。
算出ベース | 手数料率 |
---|---|
5億円以下の部分 | 5% |
5億円超~10億円以下の部分 | 4% |
10億円超~50億円以下の部分 | 3% |
50億円超~100億円以下の部分 | 2% |
100億円超の部分 | 1% |
会社譲渡後の変化
経営者
会社譲渡後は、譲渡側企業の経営権は譲受側企業へと移転します。また、譲渡側企業の経営者は2つのパターンがあり、会社譲渡完了に伴い引退するケースか、ロックアップによって一定期間は引継ぎ業務にあたるケースのどちらかです。
会社譲渡後に譲渡側企業の経営者が引継ぎ業務にあたる場合、ロックアップ期間や期間中の待遇についてはM&Aの交渉段階で譲受側企業と話し合って決定します。
従業員
譲渡企業側の従業員については、雇用契約がそのまま譲受側企業へ引き継がれます。会社譲渡によって雇用条件が悪化するということはほとんどなく、会社譲渡前と同じ条件で引き継がれることが多いです。
また、雇用契約の引継ぎについては、株式譲渡スキームであれば特別な手続きを行わなくても譲受側企業へ包括承継されます。
ただし、事業譲渡スキームによって会社譲渡を行った場合は、従業員の雇用契約は個々に再契約手続きが必要です。
取引先や顧客
取引先との契約や顧客についても、会社譲渡後は譲受側企業へと引き継がれます。従業員の雇用と同様、株式譲渡スキームであれば手続きは不要ですが、事業譲渡スキームの場合は個々に契約しなおすかたちです。
会社譲渡後は経営者が代わるため、取引先や顧客が不安に感じる可能性もあります。そのため、譲渡側企業の経営者は会社譲渡後の契約等について、丁寧に説明しておくことが重要です。
会社名
会社譲渡後に社名が変更されるかについては、譲受側企業の方針や意向によって変わりますが、譲渡側企業の社名は変更されないケースが多いです。ですが、譲受側の企業グループであることがわかるような社名に変わるケースもあります。
債権債務
譲渡側企業の債権・債務や経営者の個人保証が譲受側企業へ引き継がれるかどうかは、会社譲渡を行ったM&A手法によって違うため注意が必要です。
株式譲渡の場合は権利義務が包括承継されるため、債権・債務も譲受側企業が引き継ぎます。
ですが、事業譲渡の場合は譲渡対象を個別に決めるため、債権・債務が引き継がれるとは限りません。
会社譲渡の成功事例
最後に最近行われたM&Aのなかから、会社譲渡の成功事例を紹介します。
エヌジーシーによるヒビノへの会社譲渡
2023年11月、音響や映像に関する事業を展開するヒビノは、エヌジーシーの子会社化を発表しました。
譲渡側のエヌジーシーは、業務用映像機器の設計や販売などを手がける企業です。譲受側のヒビノは、音響・映像機器等の販売・コンサート等の音響や大型映像サービスを手がけており、エヌジーシーとは得意な技術領域が異なります。
ヒビノはエヌジーシーの子会社によって、ハードとソフトを融合した高度なサービスの提供が可能となり、事業のさらなる拡大が図れると判断し本M&Aに至りました。
タロスシステムズによるシンシアへの会社譲渡
2023年11月、コンタクトレンズの製造・販売を手がけるシンシアは、タロスシステムズの子会社化を発表しました。
譲渡側のタロシステムズは、リユース業界向けシステムの導入サービスや保守サービスを手がける企業です。
今回の子会社化は譲受側シンシアの新規事業参入が目的であり、事業領域の拡大によって収益基盤の強化を図るとし、本M&Aに至りました。
今後は、シンシアがもつWebマーケティングに関するノウハウと、タロシステムズのシステムやサービスとを融合し、サービス向上や顧客拡大へつなげていくとしています。
会社譲渡の手続きまとめ
会社譲渡は、企業の成長・発展や事業承継などを目的として多く活用されている方法です。最近では、中小企業がM&Aを行いやすい環境が整ってきており、事業承継目的で会社譲渡を行うケースも増えてきています。
会社譲渡が実現すれば多くのメリットを得ることができますが、M&Aは戦略的に進めなければ成功させるのが難しいのも事実です。会社譲渡を検討している場合は、早期にM&Aの専門家へ相談して進めていくことが成功のカギともいえるでしょう。
M&A・事業承継のご相談ならM&Aプライムグループ
M&A・事業承継については専門性の高いM&AアドバイザーがいるM&Aプライムグループにご相談ください。
M&Aプライムグループが選ばれる4つの理由
②業界特化の高い専門性
③最短49日、平均約半年のスピード成約
④マッチング専門部署による高いマッチング力
>>M&Aプライムグループの強みの詳細はこちら
M&Aプライムグループは、成約するまで無料の「譲渡企業様完全成功報酬制」のM&A仲介会社です。
無料で相談可能ですので、まずはお気軽にご相談ください。