株式交換の法務手続き方法を分かりやすく解説!流れや期間・スケジュールは?
完全親会社・完全子会社の関係を作り上げる方法である「株式交換」には、法律の絡んだ項目が多く存在します。この記事では株式交換にかかわる法務手続き方法を、期間・流れやスケジュールなど手続きに必要な知識とあわせて確認しましょう。
目次
株式交換の意味と近年の動向
まず株式交換の意味を確認しましょう。
株式移転とは少し異なる特徴があるので、この違いに触れながら解説します。
株式交換とは
株式交換とは、M&Aで行われる手続き方法の1つです。
買い手が売り手企業の株式を100%取得し、売り手も買い手企業の株式を取得します。
これにより、会社間で親子関係を形成できるのが大きな特徴です。
株式移転との違い
株式交換と似たM&A用語に「株式移転」という方法があります。
株式交換は会社間で行われますが、株式移転は親会社を新設するのがポイントです。
株式移転は新設会社を親会社とし、親会社に会社の株式を全取得してもらいます。
会社の株主は、新設親会社の株主になります。
事業運営に障害が出ないため利用しやすいM&A手法
株式交換は、株主が変わりますが基本的に事業運営に障害が出ません。
別の会社として存続するので、組織を変えずに会社経営ができる点がメリットです。
近年の動向
経営の効率化の目的で、株式交換を行うケースが見られるようになりました。
競争力が激化したグローバル社会では、さまざまな合理化を図らなければなりません。
その際、株式交換という方法でM&Aを考慮に入れる事例は会社規模を問わず見られています。
株式交換の法務手続きにかかる期間とおおよそのスケジュール
ここでは、株式交換の法務手続きに必要な期間とスケジュールを解説します。
記載するのは、効力発生日を4月1日と仮定してのおおまかな期間のスケジュールです。
1つの参考例として読み進めてください。
2月初旬:株式交換契約書内容の検討
4月1日の効力発生日から期間を逆算すると、初動は2月初旬です。
まず、会社では株式交換契約に関する検討を行います。
契約の枠組みや会社としての方向性など、基本的な内容を決めましょう。
2月中旬:取締役会で株式交換契約の承認
次の流れは、取締役会の開催です。
取締役会の設置会社は、株式交換契約を締結するための承認を得なければなりません。
親会社も子会社も、この行程を経て契約手続きに移ります。
2月中旬:株式交換契約の締結
取締役会で株式交換契約の承認が得られたら、次の流れは株式交換契約の締結です。
契約書類には、株式交換の意思や会社の基本情報、交換比率、効力発生日、資本金変動、契約解消自由など詳細に記入します。
契約なので双方で合意できる内容でなければなりません。
トラブルをできるだけ抑えるためには、必要な項目を明確に記載する必要があります。
2月中旬:事前開示書類の備置
次の流れとしては、株主への事前開示手続きを行います。
当該会社の株主には、株式交換が行われる旨を通知しなければなりません。
事前開示書類を作成し、効力発生日から6カ月の期間は保管する必要があります。
2月下旬:株主総会の招集通知発送
次の流れとしては、株主総会の招集通知発送手続きを行います。
株主総会を開催して承認を得るために、株主に株主総会招集通知と呼ばれる書類を送付します。
ただし、通知スケジュールにも注意しなければなりません。
株主総会招集通知は、上場企業なら開催日の2週間前、非上場企業なら1週間前までの期間に通知しましょう。
2月下旬:債権者保護手続き・株券などの提供公告・株式買取請求通知
次の流れとしては、債権者保護手続き、株券などの提供公告、そして株式買取請求通知を行います。
株式交換手続きでは資本金減少で株主の利益に影響を与える可能性があります。
株主に株券提供に関する公告をし、異議申し立てができる旨を知らせなければなりません。
債権者保護手続きは、効力発生日の1カ月前までの期間で行います。
3月中旬:株主総会開催
次の流れとしては、株主総会を行います。
株主総会には議決権を持つ株主の過半数の参加がある上で、3分の2以上の承認を得なければなりません。
ただし、買い手の会社が保有する純資産の5分の1以下を取引の対価とした場合など株主総会を省略できるケースがあります。
4月1日:株式交換効力発生・完全子会社株主へ株式など交付
ここまで手続きを進めれば、いよいよメインスケジュールです。
株主交換の効力発生日となり、親会社は完全子会社株主へ株式を交付します。
債権者保護手続や株主総会を省略できれば、ここまでの期間をより短くできるかもしれません。
4月1日より:各種登記申請・事後開示書類の備置・株主、債権者への対応
スケジュール通りに進み効力発生日を迎えても、まだ必要な手続きはあるので注意してください。
株式交換の効力発生日から2週間以内の期間で登記申請を済ませます。
資本金が変化した場合は、その内容で登記申請しなければなりません。
株式交換手続きに関する書類は、効力発生日から6カ月の期間は開示する義務があります。
開示方法は、内容が的確に記載されていれば書類でもPDFでも問題ありません。
株式交換の法務手続き方法と流れ
M&Aを株式交換の方法で実施する場合、手続きの中では多くの法務手続きが必要です。
会社法や独占禁止法、金融商品取引法など多くの法律に抵触することがないように万全な手続きを進めなければなりません。
株式交換で注意が必要な法務手続きは、一般的に以下の11項目です。それぞれ詳しく見ていきましょう。
- 取締役会決議・株式交換契約の締結
- 株式交換に関する情報開示
- 株主総会の招集通知発送・株主総会による株式交換契約の承認
- 債権者保護手続き
- 反対株主への対応・株式買取請求
- 金融商品取引法への対応
- 株券・新株予約権の証券提出手続き
- 新株発行・設立・変更の登記申請
- 独占禁止法への対応
- 事後開示書類の備置・開示
- 株式交換無効訴え
取締役会決議・株式交換契約の締結
株式交換の最初の流れは、取締役会議と株式交換契約の締結です。
取締役会設置会社は、このプロセスで承認を得てから契約する必要があります。
契約の際は株式交換契約書を作成し取り交わします。
株式交換に関する情報開示
株主交換は、取引の公正性や透明性を確保するため株主に情報開示しなければなりません。
開示する情報は、交換日、比率、交換時の株式価格、契約の条件が一般的です。
状況によって、この他に記載される項目もあります。
株主としての権利を守るためにも、適切な情報開示は必要です。
株主総会の招集通知発送・株主総会による株式交換契約の承認
会社は株主総会招集通知を作成・発送し、株主総会で株式交換契約の承認を得なければなりません。
議決権を持つ株主が参加し、賛成を得るプロセスが必要です。
債権者保護手続き
株式交換では、資本金の財務状況の変化により債権者にとって不利益となる場合があるかもしれません。
会社は株式交換の正しい情報を開示し、債権者の権利を守るための措置を提供するのが一般的です。
債権者の合意を得るといったプロセスを経るケースもあり、会社や状況によって異なります。
反対株主への対応・株式買取請求
株主には、株式交換に反対する人もいるかもしれません。
反対株主は、会社に対し株式を買い取るよう求める場合があります。
この権利が株式買取請求権です。
権利行使には反対株主は反対通知を会社に出し、株主総会で反対票を投じる必要があります。
金融商品取引法への対応
株式交換は、一部のケースで有価証券届出書を提出する必要があります。
例えば、子会社株主が50人以上のときなどが届け出の要件です。
非上場企業の場合は、必要ないとされています。
この他にも多くの要件があるので、金融庁の公式サイトも併せて確認しましょう。
株券・新株予約権の証券提出手続き
次の流れは、株券・新株予約権の証券提出手続きです。
効力発生日までに株主から株券や新株予約権を提出してもらう必要があります。
提出がない場合、その株式に関するの対価の支払いを株主は得られません。
株券を交付していない会社の場合は、この手続きはスキップします。
新株発行・設立・変更の登記申請
親会社が新株や新株予約権を発行したり、子会社が新株予約権の処分を行ったりした場合は、登記申請を行わなければなりません。
効力発生日から2週間以内の期間で手続きを済ませます。
この際、登録免許税が発生するので注意してください。
独占禁止法への対応
株式交換が特定のケースに当てはまる場合は、公正取引委員会に届け出を出さなければなりません。
公正取引委員会が認めない場合は、株式交換できないことになります。
届出要件は以下の通りです。当てはまる場合は届け出を行い、公正取引委員会の審査を受けなければなりません。
株式交換の届出要件 |
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株式を取得しようとする会社およびグループの日本国内売上高が200億円を超えている |
株式発行会社および子会社の日本国内売上高が50億円を超えている |
グループの保有する議決権保有割合が20%または50%を超える |
事後開示書類の備置・開示
会社法では、効力発生日から6カ月の期間は事後開示書類を保管しなければならないと定めています。
効力発生日や、株式交換数、手続きの内容が分かるように記載されたものです。
株式交換無効訴え
契約の内容に不備がある場合、株主など債権者、取締役は株式交換の無効を訴えられます。
債権者の保護が適切に履行されていない場合にも、無効の訴えを起こせます。しかし、具体的事由は会社法で規定されていません。
ただし期間が定められており、効力発生日から6カ月以内に訴えを起こさなければなりません。
株式交換の手続きをするメリット・デメリット
株式交換の手続きに関するメリットとデメリットを確認しましょう。
それぞれ強みと弱みをバランスよく理解した上で手続きに入るのが理想です。
メリット
M&Aで株式交換の手続き方法を選ぶメリットは、以下の通りです。
特に対価部分で特徴的なメリットがあります。
買い手側が対価を親会社の株式にすれば、資金調達する必要がありません。
M&Aで資金調達がネックになる場合には、魅力的な点だといえるでしょう。
株式交換の主なメリット | ・少数株主を排除できる ・売り手の会社が独立できる ・資金を用意する必要がない |
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デメリット
株式交換の手続き方法を選ぶデメリットは以下の通りです。
親会社が買収の対価を株式として場合、株式発行数によっては1株あたりの価値が下落する可能性があるので注意しましょう。
これは株主としての議決権比率に影響するおそれがあります。
株式交換の主なデメリット | ・親会社(買い手)の株主構成が変化する ・手続きが煩雑 ・1株あたりの価値が下がるおそれがある |
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株式交換の法務手続きをする上での注意事項
株式交換は、手続きの流れの中で法務知識が必要です。
法務手続きの中で特に注意したい項目を確認しましょう。
以下7つのポイントに留意しながら手続きを行うことをおすすめします。
- 法律に従って手続きを進める
- ストックオプションへの適切な対応
- 自己株式や種類株式の処理
- 子会社側の上場廃止に関する規定
- 株式交換は株式会社のみ行える
- 新株予約券に生じる承継義務
- 株式交換の法務手続きに詳しいM&A専門業者に相談する
法律に従って手続きを進める
法務手続きの大前提事項でもありますが、法律に従って手続きをすることが最重要です。
法律に抵触してしまうと、手続きが進められません。会社の信頼性も落ちるリスクがあります。
法務手続きは、法務に詳しい専門家のアドバイスを得るのが有益です。
ストックオプションへの適切な対応
ストックオプションとは従業員に対し、あらかじめ設定した価格で購入できる権利のことをいいます。
株式交換後にストックオプションが行使されると、完全子会社化に支障をきたすかもしれません。
親会社は、子会社のストックオプションの買い取りや消滅など適切な対応が求められます。
自己株式や種類株式の処理
完全子会社が自己株式や種類株式を保有する場合は、親会社が処理しなければなりません。
子会社による親会社の株式取得は、会社法で禁止されているからです。
株式交換では例外的に親会社の株式保有を認めていますが、「相当の時期」に処分されなければならないと定められています。
具体的な期間が明記されているわけではないので、不安な場合は専門家のアドバイスを受けると良いでしょう。
子会社側の上場廃止に関する規定
上場企業の場合は、上場廃止に関する規定に注意しなければなりません。
完全子会社が既に上場企業である場合、効力発生日までに上場廃止になります。
効力発生日から子会社の株主へは、親会社の株式が交付されることになりますが、この流れの中では株式の売買取引はできません。
株式交換は株式会社のみ行える
株式交換は、株式会社のみができる点にも注意が必要です。
例えば、有限会社が株式交換の当事者になる場合、株式会社へ商号を変えてから手続きを進めなければなりません。
通常の手続きよりも時間がかかります。
新株予約券に生じる承継義務
新株予約権を発行している場合は、完全子会社化を実施できません。
親会社や株主総会での合意が求められます。
株式交換の法務手続きに詳しいM&A専門業者に相談する
複数の注意点を紹介しましたが、いずれも法務の専門知識が必要です。
会社としても法律への抵触は避けなければなりません。
より安心した手続きを実現させるためには、株式交換の法務手続きに詳しいM&A専門業者に相談することをおすすめします。
株式交換の法務手続きは専門家のサポートを受けながら成功させよう
株式交換には数々の法務手続きが伴います。
手続きの流れの中で的確な処理が求められるので、場合によっては時間がかかるかもしれません。
専門家のサポートを受けながら法務手続きをクリアして、株式交換を成功させましょう。
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