M&Aの譲渡価格の相場はどうやって決まる?事業売却と会社売却の企業価値評価についても解説!
M&Aの譲渡価格は最終的に売却側・買収側の交渉で決まりますが、その際は企業価値評価の価格が相場となります。この記事では、M&Aの譲渡価格の相場となる企業価値評価の方法や、事業売却と会社売却での相場の違いなどを解説します。
目次
M&Aの相場とは
M&Aは企業(あるいは事業)の買収や複数企業の合併を表す言葉です。簡単にいえば「会社や事業を売り買いする」行為なので、取引には対価の支払いが伴います。
M&Aの最終的な価格は売却側と買収側の交渉によって決まりますが、売却側と買収側が互いに希望価格を提示するわけではありません。
M&Aでは相場となる企業価値の評価額があり、交渉を行ううえでは相場が重要な意味を持ちます。
相場の持つ重要度
冒頭でM&Aの最終的な譲渡価格は交渉で決まると述べましたが、その際に相場がどのくらいなのかを把握しておかなければ買収側は高値掴みしてしまったり、売却側からすれば安値で譲渡して損をしてしまったりする可能性もあります。
M&Aにおける譲渡価格の相場は、企業価値と呼ばれる「会社(あるいは事業)の価値」がベースとなりますが、将来どのくらいの利益が見込めるかという不確定要素も含まれる価格です。
中小企業が行うM&Aの場合はM&A仲介会社が間に入るケースがほとんどですが、その場合は売却側・買収側それぞれが算出した見積もり(M&A価格)をすり合わせながら交渉を進め、最終的な価格を決定します。
ですが、自社(あるいは事業)の売却相場はいくらなのか、買収価格はどのくらいが妥当なのかという点はM&A前に売却側・買収側それぞれがよく理解しておくことが重要です。
売却側が考える相場
売却側にとって譲渡対象となる自社(あるいは事業)は、長年の努力で実績を積み上げて築き上げたものです。そのため、過大評価をしやすい傾向にあり、相場より高い希望譲渡価格を提示するケースも多くみられます。
希望譲渡価格はあくまでも希望なのでいくらで提示しても問題があるわけではないですが、実際の企業価値からかけ離れた高値であれば、会社や事業の譲渡が成立する可能性が低くなるのが現実です。
会社や事業の売却側企業は、M&Aの相場価格がどれくらいなのかを事前に把握し、適正な希望価格を提示する必要があります。
買収側が考える相場
売却側の希望譲渡価格が相場より高めに設定されるのに対し、買収側は低めに見積もる場合が多くみられます。
というのは、当然少しでも安く取得したいと考えるからであり、そのうえ将来の収益見込みなど不確定な要素が含まれるためです。
企業価値にはブランド力・ノウハウ・技術力など目に見えない資産価値が含まれますが、これらを適正に評価できなければ買収側は買収資金の回収が難しくなり、最悪の場合は既存事業の運営にも支障をきたしかねません。
また、売却側企業の優秀な人材がM&Aをきっかけに流出するリスクも少なからずあるため、少しでも取得したいと考えることは当然ともいえ、買収側の考える相場価格は売却側より低めであるケースが多いです。
M&Aの譲渡価格
売却側・買収側それぞれが考える相場価格には開きがあることも少なくありませんが、M&Aには適正価格という考えがあります。
適正な譲渡価格を提示することで高値掴みや安値売りなどのリスクを下げることが可能です。自社(あるいは事業)の売却を検討している場合は、適正価格がどのくらいなのかをまず把握する必要があります。
適正価格とは
会社や事業を譲渡する場合、売却側と買収側では希望譲渡価格が大きく隔たることも少なくありません。
譲渡価格(買収側からみれば取得価格)を考える際に最も重要なのは、単純に高いか安いかということではなく「適正価格であるか」ということです。
ですが、適正価格をどう考えるかも売却側と買収側では違うため、M&Aの実務では「企業価値」を適正価格と考え、それをベースに交渉を進めて最終的な価格が決まります。
企業価値は売却側の財務状況や資産、将来の収益性などを客観的に算出した価格です。企業価値をベースに価格交渉を進めることで、売却側・買収側の双方が納得しやすい価格でのM&A成立に期待できます。
譲渡価格の簡易計算方法(年買法)
適正な譲渡価格であることが重要だとわかったら、自社(あるいは事業)の売却はどのくらいが適正価格なのかと考える経営者も多いはずです。
M&Aでは企業価値を適正価格と考えて交渉ベースにしますが、複数の企業価値算出方法がありどれを用いるかはケースによって違います。
ですが、年買法という計算方法を用いれば簡易的に自社(あるいは事業)の譲渡価格相場を計算することが可能です。
年買法は「時価純資産+営業利益の3〜5年分」という計算式で比較的簡単に求めることができます。
計算手順としてはまず純資産額を求めますが、時価純資産額とは売却側企業が本業で得ている利益を指し、貸借対照表の簿価額を時価額へ修正してから資産総額から負債総額を差し引いたものです。
次に営業利益を算出しますが、この場合の営業利益は実質営業利益を指し「売上総利益-諸経費+節税対策額」で求めます。
営業利益の年数は将来性を加味して決定しますが、3〜5年分であるケースが一般的です。
M&Aの企業価値評価の大分類
M&Aにおいては企業価値評価を行い適正な譲渡価格を提示することが、M&A成功にもつながります。
企業価値の評価方法は複数の種類があるので、自社に合ったもので評価を行うことがポイントです。ここでは、主な企業価値評価の種類とそれぞれのメリット・デメリットを紹介します。
コストアプローチ
コストアプローチはネットアセットアプローチとも呼ばれる企業価値の評価方法で、評価対象企業の純資産をもとに算定します。
メリットとデメリット
コストアプローチは、貸借対照表の純資産を算定ベースとするため客観性が高く、売却側・買収側のどちらからも理解が得られやすい点がメリットです。
また、複雑な指標を用いる必要がなく、算定も比較的容易な点もメリットといえます。
一方でデメリットは、評価対象企業の収益性を生み出すのれんなどの無形資産価値が評価に反映されないことです。
そのため、スタートアップや成長が著しいベンチャー企業を評価するにはあまり適していません。
主要な手法
コストアプローチの主な手法には以下の3つがあります。どの手法も貸借対照表の純資産額をベースとしますが、簿価と時価のどちらを用いるかが大きく異なる点です。
- 簿価純資産法・・・簿価ベースの純資産を算出ベースとする方法
- 時価純資産法・・・資産と負債を時価評価した純資産を算出ベースとする方法
- 時価純資産+営業権(のれん)・・・時価純資産に営業権を加えて将来価値を加味する方法
コストアプローチの上記3手法では、時価純資産に営業権(のれん)を加えて、評価対象企業のノウハウやブランド力など超過収益力を加味する方法が中小企業のM&Aで多く用いられています。
インカムアプローチ
インカムアプローチは、評価対象企業の将来見込まれる収益をリスクなどを考慮した値(割引率)で割り引き企業価値を算定する方法です。
収益には将来の利益・キャッシュフロー・配当などが該当し、リスクを考慮した分を割り引くことで現時点の価値に換算します。
つまりインカムアプローチは「当該企業(あるいは事業)を買収した場合、最終的にどのくらい回収できるか」という考え方に基づく算出方法です。
メリットとデメリット
インカムアプローチは、評価対象企業が持つ性質や収益獲得能力が結果に反映される点がメリットです。その特徴から高い成長性が見込まれるIT業界の企業で多く用いられます。
その一方で、評価対象企業が作成した事業計画書をもとに将来の収益を予測するため、主観が入りやすく客観性に欠ける点がデメリットです。
また、倒産の可能性がある企業など将来の予測ができない場合はインカムアプローチを使用することはできません。
主要な手法
インカムアプローチの手法は主に以下の3つです。どの手法も将来の収益性に着目して企業価値を評価しますが、算出ベースとなるものがそれぞれ違います。
- DCF法・・・将来のキャッシュフローを現在価値に置き換えた値をベースとする方法
- 収益還元法・・・企業が将来得られるであろう収益を現在価値に置き換え、その値をベースとする方法
- 配当還元法・・・将来の配当予測額をベースとする方法
上記3つの方法で最もポピュラーなのはDCF法であり、M&Aでの企業価値評価だけでなく、設備投資などへの投資判断や銀行などが融資判断を行う際に用いられることも多いです。
また、インカムアプローチでは企業あるいは事業における将来の収益性が重視されるため、評価時点で利益があまり出ていない企業・事業でも評価が高くなるケースもあります。
マーケットアプローチ
マーケットアプローチは、評価対象企業と事業内容や規模が類似する上場企業を選び、その上場企業の株価や過去のM&A取引価格をベースとして、企業価値を評価する方法です。
メリットとデメリット
マーケットアプローチは、類似上場企業の株価や実際のM&A取引価格をベースとするため、客観性が高く市場動向が結果に反映される点がメリットです。
その一方で、評価対象企業と事業内容や規模が類似する上場企業を探すのは難しいうえ、選ぶ際は少なからず恣意性が入る点がデメリットとして挙げられます。
また、類似する上場企業がない場合はマーケットアプローチを用いることができない点もデメリットといえるでしょう。
主要な手法
マーケットアプローチの手法は主に以下の3つがあり、なかでも類似企業比較法(マルチプル) が比較的多く用いられています。
- 類似企業比較法(マルチプル)・・・類似する上場企業の指標(EBITDA・売上高・営業利益など複数の指標を使用)をベースとする方法
- 市場株価法・・・類似する上場企業の市場価格をベースとする方法
- 類似取引比較法・・・類似する上場企業のM&A取引(複数回)における売買価格をベースとする方法
マーケットアプローチは、評価対象企業の固有性質や将来の収益力が加味される点で優れていますが、類似企業の選定に主観が入りやすいためインカムアプローチと併用されるケースも多いです。
M&Aの代表的な企業価値評価方法
先に述べたように、企業価値の評価方法にはさまざまな種類があります。どの評価方法にもメリットとデメリットがあるため、評価対象の状況などを考慮して適切な方法を選ぶことが重要です。
ここでは、M&A相場を求める際に用いられることが多い3つの企業価値評価方法を紹介します。
修正純資産法
修正純資産法はコストアプローチに分類される企業価値評価法で、会社売却時の相場を知りたい場合などで用いられることが多いです。
評価対象企業の時価修正した純資産を株式価値とする方法であり、株式価値は「総資産額(時価)ー総負債額(時価)」で求めることができます。
財務諸表の数字を用いるため客観性は高いですが、売却対象となる企業あるいは事業の料来の収益力は加味されないため、相場としての納得感が得られないケースも多いです。
DCF法
DCF法はインカムアプローチに分類され、将来の予測フリーキャッシュフローをベースとして相場を計算します。
フリーキャッシュフローとは企業が自由に使える資金(現金)を指し、事業拡大・設備投資・借入金の返済などにどれだけ資金を割けられるかが決まる経営の安定化に欠かせないものです。
DCF法では、将来獲得すると予測されるフリーキャッシュフローを現在価値に割り引き企業価値を算出しますが、割引率は将来のリスク等を考慮した数値を使用します。
相場を論理的に求めることができるため、大企業のM&Aで用いられることも多い方法ですが、将来の予測は非常に難しいことや割引率を決定するための絶対的基準値は存在しないため、相場がぶれやすい点がデメリットとして挙げられます。
類似会社比較法
類似会社比較準法は、事業内容や規模が類似する上場企業を選び、その株価をベースとして企業価値を評価する方法です。
市場動向が反映されるため、客観性の高い相場を知ることができます。一方で、その上場企業を類似企業に選ぶかは非常に難しく、主観も入りやすい点がデメリットです。
また、中小企業の場合などは事業規模が同程度の上場企業がみつからないこともあり、その場合は類似会社比較準法による算出はできません。
M&Aの譲渡価格を決める要素
企業価値評価を行なえばM&Aの譲渡価格相場を知ることはできますが、実際のM&A譲渡価格はどのような要素で決まるのでしょうか。ここでは、M&Aの譲渡価格を決める主な要素を紹介します。
利益見込み
買収側は事業拡大や売上利益向上を図るためにM&Aを行うため、譲渡側へ提示する価格にはM&A後に見込まれる利益分が考慮されるケースがほとんどです。
M&A後に見込まれる利益にはのれん(営業権)が含まれ、のれんは譲渡側の過去の営業利益から算出します。
M&Aでのれんが加算されるのは基本的に譲渡側が黒字であるケースですが、赤字であっても高い技術力やブランド力がある企業や希少性の高い事業を手掛ける企業であれば、のれんを加味した価格が提示されることもあるでしょう。
のれんの額は中小企業であれば過去3年程度の営業利益から平均を出し、その3年~5年分を加算するケースが一般的です。
つまり、のれんが高く評価されれば、相場を上回る価格でM&Aが成立する可能性も高くなります。
純資産
純資産は譲渡価格を構成する要素のうちで最もわかりやすく、譲渡側の財務諸表さえあれば比較的容易に算出することができます。
純資産の額は譲渡価格を決める要素のひとつとなりますが、貸借対照表は簿価で計上されており、その額が純資産の実際の価値とはいえないため、M&Aでは時価に修正して譲渡価格相場に反映させるケースが多いです。
知的財産
知的財産とは「財産的な価値のある情報」のことで、たとえばデザイン・アイデア・新技術などが該当し、それらの価値を法的に保護する権利を「知的財産権」と呼びます。
知的財産権には大きく著作権と産業財産権の2種類があり、特許権や商標権は産業財産権にあたるものです。
このような知的財産を譲渡側が持っている場合、買収側はそれを獲得することで競合相手の製品やサービスを排除することができ、自社の利益を守ることができます。
知的財産は競争力を高めることができるものなので、その権利を持つ譲渡側は相場を上回る譲渡価格でM&Aが実現する可能性も高いです。
市場シェアの割合
譲渡側が保有する市場シェアの割合も、譲渡価格を決定するうえで重要な要素です。買収側はM&Aによって譲渡側の保有する市場シェアをそのまま引き継ぐことができるため、その割合が大きいほどM&A後の事業拡大が見込めます。
また、買収側が新規事業への参入を目的としている場合、すでに一定シェアを持っている企業を取得すれば、スムーズに事業が展開できる点が大きなメリットです。
特に参入障壁が高い業界の企業であれば、相場より高い価格での売却が実現しやすくなります。
競合相手の存否
買収側のほかにも譲渡側の事業を取得したい企業がいる場合は、譲渡価格が相場を上回ることがあります。
というのは、買収側が競合相手がいる場合、譲渡側の企業あるいは事業を取得するにはライバルより高い相場価格を提示しなければならないためです。
特に競争が激しい業界のM&Aでは起こりやすいですが、複数の買収候補企業がいる場合のみ影響を及ぼす要素といえます。
顧客リスト
譲渡側が保有する顧客も、譲渡価格にかかわる要素のひとつです。なかでも買収側が新規事業参入を目的としている場合は、新規事業開始時に一定の顧客を有していれば事業を軌道に乗せる時間の大幅な短縮ができます。
実際に多くの企業は新規事業参入時にM&Aを活用しており、譲渡側が多くの顧客を有していれば相場を上回る価格で高値で売却できる可能性があるでしょう。
取引先
譲渡側がどれだけ取引先を抱えているかという点も、譲渡価格相場に影響する要素です。会社売却で多く使われる株式譲渡であれば、譲渡側の取引先もM&Aによって買収側へそのまま引き継がれます。
事業譲渡のような個別承継では個々に契約まき直しが必要ですが、取引先との関係を継続できる可能性が非常に高いです。
買収側にとって新規取引先の獲得は事業拡大のチャンスともなるため、譲渡価格相場に反映される可能性もあります。
従業員
譲渡側がノウハウや経験を持つ優秀な従業員や有資格者を多く保有している場合、買収側はM&Aによってその従業員を一度に獲得することができます。
特に人材不足が課題となっている業界の場合、買収側にとって魅力があり、譲渡価格の相場に反映される可能性が高いです。
ただし、M&A前後で人材が流出してしまうと買収側はM&Aの十分な効果が見込めないため、譲渡側は従業員に対して丁寧な説明や引継ぎを行うなどの対策も必要といえるでしょう。
技術力
譲渡側が独自の技術や高い技術力を有している場合は、譲渡価格が相場を上回る可能性が高くなります。
新技術を開発し実用できる段階までにかかる時間と費用は非常に大きく、そこには当然リスクもありますが、M&Aを行なえば買収側はすぐに事業で活用することが可能です。
技術力やノウハウなどは目に見えないもの(無形資産)ですが、事業が利益を生み出すための源となります。
無形資産の価値は業界・業種によって大きく違いますが、技術力に強みのある企業であれば譲渡価格が相場を上回る可能性が高いです。
経営者の経営方針
経営者の人間性や経営方針なども、譲渡価格相場に影響する可能性があるでしょう。
買収側にとっては、これまでどのような経営方針で事業成長を遂げてきたのか、どのような人間性を持つ経営者なのかをトップ会談と通じて確認し、具体的なM&A交渉をするかを判断します。
譲渡側の経営方針は譲渡価格に直接影響するものではありませんが、買収側がM&Aを実施すべきか否かという判断をする重要な要素です。
M&Aの価格交渉方式
M&Aの価格は企業価値評価をベースに交渉し、最終的に譲渡側・譲受側が合意した価格で成立するため、明確な相場はありません。
譲渡側は相場より高く売却したいと考えるものですが、M&Aの交渉方式は2つあり、どちらを選ぶかで譲渡価格が変わる可能性もあります。
ここでは、個別交渉方式・オークション方式、2つの交渉方法についてみていきましょう。
個別交渉
個別交渉は、譲渡側と買収側候補とで価格や条件などを交渉していく形式です。中小企業M&Aで多く活用されているM&A仲介会社の場合も、ほとんどがこの個別交渉方式で行われます。
双方が合意すればM&Aが成立するため、短期間でM&Aが完了するケースも多いです。ですが、M&Aが成立しなかった場合、譲渡側はあらためて買収候補先を探す段階から始めなければならないため、その場合はかえって時間がかかるデメリットもあります。
オークション
オークションは、譲渡側の情報(譲渡対象事業の内容や事業エリアなど)を企業名は伏せた状態で公開して交渉相手を募集し、そのなかの数社(2社~3社が多い)と交渉を進める形式です。
買収候補がそれぞれ価格や条件を提示して交渉を進める形であり、譲渡側はそのなかから最終的な譲渡先を決定します。
買収側はほかにライバルがいる状態で価格・条件を提示するため、相場より高い価格がつきやすいのが売却側のメリットです。
しかし、オークションの場合は、最終決定した企業と契約しなければならず、売却の取りやめはできません。
M&Aの譲渡価格を相場よりも高くする方法
経営者であれば育て上げた自社・事業を相場より高く売却したいと思うのは自然なことです。
では、M&Aの譲渡価格を相場より高くするためにはどのようなことが必要なのでしょうか。ここではM&Aの譲渡価格を相場より高くするためのポイントを5つ紹介します。
企業価値の向上
企業価値による譲渡価格を決めるうえで最も大きな要素となるため、M&Aを行う前に企業価値を向上させる対策を行っておくことも重要です。
企業価値を高めるためには、収益力を上げたり財務状況を改善したりする方法があり、短期間で行なえないものもあるので早期段階から着手しておいたほうがよいでしょう。
また、企業価値は企業の業績がよい時期のほうが高くなることが多いです。企業価値が高いほうが相場を上回る譲渡価格や好条件でM&Aが成立する可能性が高くなるため、売却タイミングをのがさないようにすることもポイントのひとつといえるでしょう。
アピール方法の工夫
相場を上回る譲渡価格でのM&A成立を目指すためには、買収側へのアピール方法にも工夫が必要です。
買収側は企業概要書によってM&A交渉に進むかどうかをまず判断するため、譲渡側の魅力が十分伝わるような資料を作成する必要があります。
その際は、他社と差別化できるノウハウや技術などの強みだけでなく、買収側に補完してもらう必要がある弱みも伝えることがポイントです。
買収側がM&Aによってどのような事業展開が可能になるか、シナジーは十分見込めるかなどを判断できるような企業概要書を作成しておくと、交渉時もアピールしやすくなります。
ニーズが高い買い手候補との交渉
M&Aにおける企業(あるいは事業)の価値は、買収側のニーズによっても変わります。逆に言えば買収側が取得したいと思わなければ、ほかの企業にとって価値ある事業でも相場以上の譲渡価額を見込むのは難しいということです。
そのため、交渉相手として考えている買収側のニーズに自社(または事業)が合致しているのかをよく検討する必要があります。
ただし、譲渡側の価値をどう評価するかは買収側によっても違うため、ニーズに合致しているからといって必ずしも相場以上の譲渡価格で成立できるわけではありません。
複数の買い手候補との交渉
相場より価格での売却を希望するのであれば、オークション方式でM&Aを進めるのもひとつの方法です。
複数の買収候補企業が価格・条件で競うことになるため、譲渡側に有利な条件でM&Aが成立する可能性も高くなります。
ですが、オークション方式は個別交渉方式より必要準備が多く時間もかかりやすいため、売却希望時期までに時間的余裕が少ない場合はあまり適していません。
また、オークション方式によってM&Aを進める場合は、入札手続きの公平性および透明性を確保することが譲渡側へ求められます。
買収側は交渉にどう臨むべきか?
買収側はより低い価格で譲渡側企業(あるいは事業)を取得できれば、当然多くの利益を見込むことができるため、値引き交渉をしたいと考えるかもしれません。
もちろん希望価格を提示するのは譲渡側・買収側ともに認められているため問題はありませんが、あまり強く値引き交渉してしまうとマイナスイメージが残ってしまいM&A後の引継ぎなどに影響が及ぶ可能性もあります。
買収側は金額ばかりにこだわるのではなく、譲渡側の企業(事業)を取得する効果などを全体的に考えて条件や価格の交渉に臨むほうがよいでしょう。
M&Aにおける事業売却と会社売却の価格差
M&Aには事業のみを売却するケースと会社(法人格)そのものを売却するケースがあります。
では、2つの方法に価格差はどのくらいあるのでしょうか。ここでは事業売却と会社売却の価格相場を比較して解説します。
事業売却の価格
事業売却とは、複数事業を手掛ける企業が事業の全部(あるいは一部)を他社へ譲渡することです。M&A実務においては、選択と集中目的で売却されるケースが多くみられます。
事業売却価格は会社売却価格より低い
事業売却の場合、譲渡対象となる事業・資産・権利などを細かく決めることができます。一方で会社売却は会社の保有株式をすべて他社へ譲渡して経営権を移転させる方法です。
会社全体を売却対象とするケースと事業を対象とするケースでは、当然事業売買のほうが価格が低くなります。
実際のM&Aでは、少しでも高く売却できるよう、M&A前に事業部門を切り出して子会社化し、会社売却のかたちを取るケースも多いです。
事業売却時の税金
事業売却を行なった場合、譲渡側には得た売却益(譲渡益)に法人税がかかり、買収側は取得した課税資産に消費税がかかります。
譲渡側に生じる法人税は損益通算が認められているので、税理士に相談して税務処理を行うとよいでしょう。
また、消費税は買収側が直接納めるわけではなく、取得対価に消費税分を上乗せするかたちで譲渡側へ預け、それを譲渡側が納付します。
会社売却の価格
会社売却は名前のとおり会社そのものを買収側へ譲り渡すことです。株式譲渡スキームによって譲渡側の全保有株式を買収側へ譲渡することで、経営権を移転させます。
会社売却価格は事業売却価格より高い
会社売却では譲渡側の資産や権利義務のすべてを買収側へ譲り渡すため、事業を譲渡対象とする事業売却に比べると価格は高くなります。
会社売却時の税金
会社売却で税金がかかるのは譲渡側のみですが、売主が法人か個人かによって課される税金が異なります。
売主が法人の場合は売却益(譲渡益)に法人税がかかり、個人の場合にかかるのは譲渡取得(会社売却によって得た利益)に対する所得税と住民税です。
休眠会社の相場
休眠会社とは事業活動を長期間行っていないものの、会社登記されている会社を指します。
会社法上では、最後の会社登記から12年以上経過した会社を休眠会社として扱う決まりですが、休眠会社になるのは株式会社だけで有限会社や合同会社は該当しません。
休眠会社でもM&Aによる売却は可能ですが、買収候補がなかなかみつかりにくく、譲渡価格も一般的な会社売却の相場よりかなり低くなることがほとんどです。
赤字の会社でも売却できるか?
赤字とは損益計算書上で支出が収入を上回っている状態ですが、一口に赤字といっても、すべてのケースで経営が悪化しているとは限らず、大型設備投資を行なったなどの理由で一時的に赤字となった場合も含まれます。
このような場合、将来の収益性が高いと買収側が判断すればM&Aが成立する可能性があります。
また、経営が悪化していても独自技術や権利をもっている企業や、有資格者など優秀な従業員が多数いる企業も、買収候補がみつかる可能性があるので一度専門家に相談してみるとよいでしょう。
M&A仲介会社に依頼するメリット
M&Aを行う際、中小企業の場合はM&A仲介会社を利用するケースがほとんどです。ここでは、M&A仲介会社に依頼する主なメリットを紹介します。
効率よく相手先を見つけられる
希望条件に合ったM&Aの相手先を探すためにはネットワークが不可欠であり、自社のみで探すとなれば限界があるものです。
M&A仲介会社は幅広いネットワークを持っており、希望条件に合った相手先をM&A後のシナジー効果なども見越してマッチングを行います。
通常の事業運営に支障をきたすことなく、効率的な売却先をみつけられる点がメリットです。
相場と遜色ない売却価格の実現
M&Aの売却価格は交渉で決まりますが、その前に買収側から提示された価格が適正なのか、相場と大きくかけ離れていないかを判断しなければなりません。
M&Aの譲渡価格にはノウハウや技術力などの無形資産も加味されるため、相場を把握しておかなければ安く売却して損をする可能性もあります。
M&A仲介会社は企業価値評価を行い、売却側の適正な譲渡価格相場を踏まえて交渉を進めていくので、相場と大きな隔たりのない価格でM&A実現が可能です。
専門的な手続きのサポート
M&Aプロセスには専門的な知識が必要な手続きが多くあり、もし間違いや抜け・漏れがあれば思わぬトラブルに発展したりM&A進行が滞ったりするリスクもあります。
M&A仲介会社のほとんどは相談からクロージングまでをサポートしており、専門的な手続きも安心して任せられる点が大きなメリットです。
M&A手数料の価格相場
M&A仲介会社などに支援業務を依頼した場合、各社が設定している手数料体系に応じた費用がかかります。
手数料体系には多くの項目があり、必ずしもすべての手数料がかかるわけではありませんが、ここでは一般的な手数料とその相場をみていきましょう。
相談料の相場
M&A検討段階で行う際の相談料は無料のM&A仲介会社が多いですが、なかには相談料が設定されているケースもあり、その場合の相場は数千円〜1万円程度です。
初期段階の相談は複数回行うこともあるため、事前に相談料の有無を確認しておきましょう。
着手金の相場
着手金とは、M&Aの支援業務について正式に契約を交わした時点で支払う手数料です。
最近は着手金不要のM&A仲介会社が増えていますが、着手金が設定されている場合はM&Aが不成立に終わったとしても返金されません。
着手金の一般的な相場は50万〜200万円程度といわれており、交渉先探しや企業価値算定の業務費に充てられる場合が多いです。
中間金の相場
中間金は、M&A交渉が一定段階に達したときに支払う手数料です。中間金が生じるタイミングは基本合意締結時が多いですが、意向表明書の受託時などで設定しているM&A仲介会社もあるため、手数料体系に中間金設定がある場合は必ず確認しておきましょう。
また、中間金はすべてのM&A仲介会社で設定されているわけではなく、無料の会社や買収側のみ中間金が必要な会社などさまざまな料金体系があります。
中間金はM&A成立前に支払う手数料ですが、成立に至った場合は成功報酬からその分を差し引くところが多いです。ですが、M&Aが不成立に終わった場合は、着手金同様、返金は行われません。
成功報酬の相場
成功報酬はM&Aが成立した時点で生じる手数料です。成功報酬はレーマン方式で計算するM&A仲介会社がほとんどであり、レーマン方式では算出基準額にレンジごとに決められた一定料率を掛けて成功報酬額を求めます。
レーマン方式の一般的な料率
以下はレーマン方式の一般的な料率であり、算出する基準額が高くなるほど料率は下がります。
なお、最低報酬額が設定されている場合、レーマン方式で計算した成功報酬額がそれを下回っていたとしても最低報酬額を支払わなければなりません。
成功報酬の基準額レンジ | 乗じる割合(%) |
---|---|
100億円超~ | 1% |
50億円超~100億円以下 | 2% |
10億円超~50億円以下 | 3% |
5億円超~10億円以下 | 4% |
5億円以下 | 5% |
成功報酬の計算例
レーマン方式が採用されている場合の成功報酬はいくらになるのか、具体例を用いて計算してみましょう(算出基準額は株式譲渡価格とする)。
たとえば、株式譲渡価格が3億円だった場合は、上表の「5億円以下」の割合を掛けた額となるので「3億円×5%=1500万円」で成功報酬額は1500万円となります。
レーマン方式で注意すべきなのは、算出基準額がレンジをまたぐ場合です。株式譲渡価格が7億円だった場合は、単純に7億円×4%=2800万円とはならず、5億円超~10億円以下の部分と5億円以下の部分を足し「(5億円×5%)+(2億円×4%)=3300万円」と計算します。
成功報酬の基準額の違い
先の例では株式譲渡価格を基準額としたケースを計算しましたが、成功報酬の基準額は以下の4種類あります。
どれを基準額とするかはM&A仲介会社によって違い、成功報酬額も変わってくるため事前の確認が重要です。
レーマン方式の種類 | 計算の基準額となるもの |
---|---|
株価レーマン方式 | 株式の売却価格 |
企業価値レーマン方式 | 株式の売却価格+すべての有利子負債 ( 役員借入金・銀行借入金 ) |
オーナー受取額レーマン方式 | 株式の売却価格+役員および株主からの借入金 |
移動総資産額レーマン方式 | 株式の売却価格+すべての負債( 役員借入金・銀行借入金・買掛金 など) |
上記4種類で最も成功報酬が安くなるのは株価レーマン方式、最も高くなるのが移動総資産額レーマン方式であり、M&Aの取引価格が同額でも成功報酬額が大きく変わります。
M&A仲介会社から相場情報を得るときの注意事項
適正価格でのM&A成立を目指すためには相場を知っておく必要があり、その際はM&A仲介会社から情報を得るのが効率的です。ですが、M&A仲介会社に相場を聞く際は注意すべき点もあります。
M&A仲介会社複数から情報を取る
M&A前に売却相場を知りたい場合は、複数のM&A仲介会社へ相談してみるのがよい方法です。
M&Aアドバイザーによって得意な事業領域や支援実績が違うため、1社からの情報で相場価格を判断するのではなく、数社から意見を聞き最も合理的な説明であると感じたところを参考にし、具体的な相談へ進むのがよいでしょう。
M&A仲介会社複数とは直接面会しない
複数のM&A仲介会社から相場情報を得ることは有益ですが、情報漏洩のリスクが全くないとは言い切れません。
ほとんどのM&A仲介会社は守秘義務を徹底していますが、なかには悪質な事業者がいる可能性もあります。
情報漏洩リスクを避けるためには、経営者自身が直接会って情報を得るかたちではなく、初めは代理人に頼むのもひとつの方法です。
M&A仲介会社の誇張表現に留意する
M&A仲介会社の収益は仲介手数料であるため、当然多くのM&A支援を行い成約させたいと考えるのが普通です。
そのため、M&A仲介会社あるいはM&Aアドバイザーによっては、現実的に成立するであろう相場より高い価格を提示してくる可能性もあります。
適正価格での売却を実現するためにも、相場情報を得る際はそのような可能性も念頭に入れておくことが重要です。
もし複数のM&A仲介会社から相場を聞き、1社だけが他社とかけ離れた高い価格を提示したならば、その会社に依頼するのは避けたほうが無難でしょう。
M&Aの相場まとめ
M&Aには明確な売却価格(あるいは買収価格)基準はなく、最終的な価格は売却側・買収側が交渉で合意した価格で成立します。
売却側が少しでも高値で売却したいと考え、買収側ができるだけ安く取得したいと考えるのは当然ですが、相場を把握していない状態では交渉がまとまらなかったり、片方が不利な条件でM&Aが成立したりする可能性もあるでしょう。
適正価格でのM&A実現を目指すためには適切な企業価値評価が必要であり、より希望価格に近づけるためには専門的な知識やノウハウも不可欠です。
満足度の高いM&Aを実現するためにも、M&A仲介会社などの専門家に相談して充実したサポートを依頼することをおすすめします。
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